loving you

セフィロスの行方を追う途中で立ち寄った町。
追い掛けている方向が間違っていないかどうかを確かめるために、町に寄った時は情報収集を怠らないようにしている。
今回もいつもと同じ…はずだった。

「ダメだ」
「でも、あそこに行くならあたしも行かなきゃ」
「なまえが行く必要はないだろ?」
「ティファとエアリスにだけ行かせるの?情報収集なら人数が多い方がいいって、いつもクラウドが言ってることだわ」
「それでもだ」

これから情報収集に行く場所は女性だけで行かなくてはならないから、なまえを心配したクラウドの機嫌は最高に悪い。
仲間達の呆れ顔とエアリスの楽しそうな表情は既に見慣れた光景ではあったものの、私は大きく溜息をついた。
「危険な場所になまえが行く必要はない」なんて、まるで私たちはいいみたいじゃない。
大好きななまえが戦えることを忘れてしまうくらい視野が狭くなっているひどい幼馴染をどうやって説得するか考えると、少しだけ頭が痛くなる。

「なら、コルネオの屋敷に潜入したときみたいにクラウドも女装する?」
「あぁ。俺が行く」
「即答かよ。まったく、元ソルジャーさんはなまえのことになると判断力がなくなっちまうみたいだな」

いつもなら反論するはずのエアリスとバレットの揶揄う言葉も、今は届いていないらしい。
私を助ける時は渋々だったのに、なまえのこととなるとなり振り構っていられないみたい。
いつもは格好つけているクラウドがなまえのこととなるとこんなにも取り乱してーーーそれが少し嬉しかったって話をエアリスにすると「わかるかも」と、嬉しそうに笑ってくれたことを思い出した。

それから、何とかクラウドを説得するなまえ。
なまえのお願い事に弱いクラウドは渋々、本当に渋々納得して、私やエアリスの傍を離れないことを約束して、やっと情報収集へ出ることが出来た。
本当、毎度のことながらこうなったクラウドを説得するのは骨が折れるのよね。



ーーーーーーーーーー



「…怒られるわね。これは…」

思わず、心の声がもれてしまう。
結局、情報収集に訪れた施設は空振りだった。

問題はその後。
人波に揉まれ、気が付けば一緒にいたはずのティファの姿はなく、別の場所で情報収集をしているエアリスのことも見つけられなかった。
逸れたときの対処法として言われていたのが宿屋に戻ること。
どの道、空振りだったこの施設に長居する意味もないので、早急に立ち去らなければ。

受付の人に伝言を残し、施設を後にする。
これでティファとエアリスには先に宿屋に戻ったことが伝わるはず。
ーーー問題は、施設を出た辺りからついて来ている男をどう対処するか。

「お姉さん、もう帰るの?近くにいい店知ってるんだ。呑み直さない?」
「…」
「あれー?聞こえてないのかな?そこの可憐なお嬢さーん」

無視を決め込んだあたしの腕を男が掴む。
着慣れていないドレスと高いヒールが歩き難くて、うまく逃げ切れなかったのは誤算だった。
振り解こうとするあたしの力なんて物ともせず、楽しそうに笑う男の顔が正直、生理的に受け付けない。
いっそ実力行使でもーーーそう考えた瞬間、綺麗な金髪のお姉さんがあたしと男の間に入った。

「あ、お姉さんも一緒に行く?俺としては大歓迎…って、おい!」

叫ぶ男の声を無視して、あたしの手を取って歩き出したお姉さん。
あたしはこの温もりも後ろ姿も知っている。
それと同時に警笛が聞こえる。
逃げろと言われているアラート音は、今後の展開を教えてくれているけど、この警笛から逃げられた試しは今までない。

手を引かれ足早に、追いかけてくる男をやり過ごす為に裏路地へと逃げ込む。
逃げ込んだ先はすれ違うのがやっとの幅ぐらいに狭く、やり過ごすにはちょうど良かった。

「助けてくれて、ありがとうございます」
「…来てよかった」
「…クラウド…だよね…」

やっぱりーーーその言葉は飲み込み、目の前にいるクラウドはいつかの女装した姿を彷彿とさせるものだろう。
あたしがこのパーティに参加したのは、彼らがミッドガルを出た後だったので、話で聞いて想像していただけだけど、きっと今目の前にいるみたいに美人だったはず。
そんな美人さんだからこそ、怒った顔はいつものクラウドより割増で怖い。

「…怒られるの覚悟して言うけど、クラウド美人!ティファを助けたときもこうだったの?いやー騙されるよ!だってこんなに美人なんだもん!」
「…はぁ」

そう。それはそれとして、目の前のクラウドは美人過ぎる。
さっきみたいに騙される男性も多いだろう。
思わずはしゃぐくらいは許して欲しい。

「…なまえ、わかってるのか?」
「ん?」

先程よりも少し低くなった声色に気付くべきだった。
クラウドの女装した姿に気を取られすぎて、助けてくれた時に聞こえたアラート音を聞き漏らしてしまった。
慌てた時には既に遅く、ドンと言う音が顔の音でして追い詰められた。
至近距離にクラウドの綺麗な顔があって、何かを口にする前にあたしの唇は塞がれてしまう。
深く深く奪われ、息が上手くできずにクラウドの服を思わず握りしめて抵抗する。
無意味とわかっていても、少しの隙間から空気を吸い込み彼の名前を口にする。
必死に息を吸って身体の中に取り込もうとするのに、すぐに何も考えられなくなって、ただクラウドに縋り付く以外何も出来なくなっていく。

「もう少しでこうなっていたかもしれないんだぞ」
「…ごめん、なさい」
「本当にわかっているのか?」
「ん、なにが…?」
「その顔…覚悟しておけよ」
「え、あ、クラウ…ド…ん…っ!」

妖しく笑った顔が再び近付いたと思えば、また深く深く奪わる。
やっと脳内まで回った酸素は再び奪われ、あたしがクラウドに支えて貰えなければ立っていられなくなるのは、もうすぐ。



ーーーーーーーーーー



「で、クラウドさんはなまえさんを独り占めですかー?」
「…」

翌朝、宿に戻ったあたしたちを出迎えてくれたのは楽しそうなエアリスとティファ。
2人が無事に戻れたことに安心しているあたしの横で、2人に責められて黙ったままのクラウド。
揶揄われているのがわかっていて、特にエアリスには何を言っても言い負かされてしまうので黙りを決め込んでいるらしい。
それでもあたしの手を離さないでいるから、エアリスの目はキラキラしている。

ちなみに、あの後あたしたちは近くの宿に行き翌朝みんなのいる宿に戻った。
少しぐったりしたあたしを近くの宿に連れて行ってくれたとき、いつの間にかクラウドはいつもの服に着替えていた。

「でもなまえと無事に合流出来て良かったわね、クラウド。女装してるの忘れて大股で乗り込んでくるから受付の人驚いてたもんね」
「ティファたちもクラウドと会ったの?」
「えぇ。私はなまえとはぐれた後にクラウドと会ったの」

そう言って笑ったティファは、クラウドの制止も聞かずに楽しそうに説明してくれた。
本当に女装して乗り込んで来たクラウドは、コルネオの屋敷で会った時よりももっと磨きがかかっていたのに、見た目とは違う威圧感に受付の人を困惑させていたらしい。
そこにティファが来たことで、どうにか信じて貰えて中に入ることが出来た。
その後、はぐれてしまったことを知ったクラウドと一緒にフロア内を探し、再び受付に戻ってあたしの伝言を聞いた2人。
クラウドは、ここでエアリスと合流し宿に戻るように告げ、あたしを探して追い掛けて見つけてくれた。

「エアリス、その辺にしてあげよう。2人にも出発の準備して来て貰わないといけないし」
「仕方ないなぁ。じゃあ、この続きはまたあとでね♪」

さっきよりも楽しそうな顔をしたエアリスに、更に眉間のシワを強めたクラウドの手を引いて宿へと戻る。
すっかり準備の終わった仲間たちを待たせないように、なるべく早く準備を済ませようと部屋へと急いだ。

そんな2人を見送る仲間たちは同じことを思う。
これが逆の立場なら、情報収集に駄々をこねるのも無茶をするのもなまえなのだから、と。
似た者同士だなと、そう思いながら微笑ましく思うのだった。



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