過去と現在とその先と。

憧れのタースクになって、先輩たちの指導を受けながらしばらく経った頃、ソルジャーを目指していたクラウドと言う1人の兵士と出会って仲良くなった。
ふわふわの金色の髪にツンツンとした毛先、純朴な青年と言うのが第一印象。
ソルジャーになる為、ひたむきに頑張るその姿勢に惹かれるのはすぐで、一緒に過ごせる時間が幸せでたまらなかった。
タークスになって戦いばかりの日々に、こんな風な気持ちを抱くなんて思いもよらなかったっけ。
必死に隠しながら大きくなる想いを抑え込んでいたある日、自身の故郷であるニブルヘイムへの任務に出た彼は、そこで裏切りを起こしたセフィロスによって殺されたとーーーそんな知らせが届いた。

受け止められない気持ちが溢れて、涙が止まらなくて、身体中の水分が消えてなくなってしまいそうだった。
それでも任務はこなさなければならなくて、忙しい日々があたしのそんな気持ちを紛らわせてくれてた。

常に危険が伴うこの仕事。
いくら戦争が終わったからと言っても、それは変わらない。
それなのにあたしは、そんなことも失念するくらい平和ボケしてしまったのだろう。

目まぐるしく変わる日々の中、アバランチとの抗争で死んでしまったはずの彼と再会した。
だけど彼は、まるで別人のようであたしのことなんて覚えてなかった。
たとえ敵対するとしても生きていてくれた、それだけでも嬉しかった。

タークスの仕事には誇りを持っていた。
同僚や後輩、先輩たちにも恵まれ、この仕事が嫌いではなかった。
だからこそ裏切ることなんて出来なくて、彼と敵対する道を選ぶ他なかった。

「お前…大丈夫か?」
「…大丈夫だって笑ったら、レノ先輩は信じてくれますか?」
「大丈夫だって笑う女は大抵大丈夫じゃないんだぞ、と」
「ふふ…さすがモテ男先輩」
「お前、それ思ってないだろ」

そうやって笑ってくれたレノ先輩は、あたしの頭をわざとらしくぐちゃぐちゃに撫で回した。
ぐちゃぐちゃになったことに文句を言えば、笑いながら髪の毛を整えてくれて、それからふと真剣な顔であたしのことを見つめた。

ドキっとするようなくらいに吸い込まれそうな翡翠の瞳。
次の瞬間、ぐっと引き寄せられた腕にあっという間に抱きしめられた。

「…アイツのこと、俺が忘れさせてやるよ」

大人の香りのするレノ先輩の香水が間近に感じられ、クラクラとする。
耳元で囁かれた声色は妖艶なのに、アンバランスに感じるほど彼の心臓の鼓動が早く耳に響く。
それが、今の言葉をどれだけ本気なのかと告げてくれていた。

でもダメだった。
もう誰だろうと彼の代わりになんて出来ないくらいに、あたしの心は彼でいっぱいだった。
例え別人みたいでも、例え敵対しなくちゃいけなくても、それは変わらない。

「…レノ先輩。ありがとうございます。それでもあたしは彼が…クラウドが好きなんです」



ーーーーーーーーーー



あの戦いから、2年。
"もう"と言うのが正しいのか"まだ"と言うのが正しいのか、どちらが正しいのかわからないくらい慌ただしい日々を過ごしていた。

セフィロスと言う驚異が世界から消え、復興を目指す世界を再びあの時の驚異が世界を覆った時、やっぱり世界を救ってくれたのはクラウドたちだった。
ヒーリンで会ったクラウドは大きな傷を負ってたように見えたけど、戦いを終えた後の彼はどこか晴れやかで、前に進み始めたんだなと、そうなんとなく思った。

あたしはあの頃のまま、どこへも進めないまま、神羅として世界への責任を果たす為に日々を過ごしていた。
レノ先輩は呆れたように笑うけど、いつでもあたしの味方でいてくれて、後輩のイリーナはいつでもあたしのことを心配してくれていた。

クラウドへの気持ちはあの頃のまま。
ずっと同じ気持ちを抱えたままだけど、前を歩き始めた彼に気持ちを伝えようとは思えなかった。

「なまえ。お前に1個仕事の依頼だぞ、と」
「わかりました。内容は?」
「旧伍番街スラムの教会に行ってくれ。頼みたい仕事はそこにいる奴が教えてくれるぞ、と」

いつもは誰かと一緒のなのに今回はあたし1人での仕事らしい。
レノ先輩に文句を言いつつも、簡単な仕事なんだろうと思い指定された旧伍番街スラムの教会を目指す。
約束の時間までまだあるし、愛機であるバイクに鍵を差し込もうとして止めて、ゆっくりと復興の進む街並みを見ながら歩くことにした。

ゆっくりだけど着実に進む復興する活気に溢れる街並みと、前に進んでいるようで全然進むことの出来ない自分。
その対比に思わず笑みがもれるくらい、へこたれているらしい自分に益々笑ってしまう。

ゆっくりと教会の扉を開くとバスターソードの隣に誰かがいた。
見間違うはずもない彼ーーークラウドが扉の開く音に反応してゆっくりと振り返った。

「…久しぶりだな」
「そうだね。元気にしてた?」
「あぁ。なまえは相変わらず忙しそうだな」
「クラウドだって。評判は聞いてるよ」
「…そうだな。今朝、久しぶりにこっちに帰ってきたところだ」

そう言って、ゆっくりとこちらに近付いてくる彼の表情はあの戦いの日よりももっと大人びていて、ずっとずっと格好良くなっていた。
久しぶりに見る彼がなんだか眩しくて、思わず視線を逸らしてしまいたくなるくらい。
それでも平常心を保ちながら喋ることが出来た自分を褒めてあげたかった。

久しぶりにってことは、きっと親友であるザックスとかつての仲間であるエアリスに会いに来たのかもしれない。
落ち着かない気持ちを必死で抑えながら、早く依頼人が来てくれないかと願う。

「そう言えば、この間ティファさんのところにご飯食べに行ったんだ。すっごい美味しかったから、またお伺いするって伝えてくれる?」
「あぁ…だが俺も久しく行ってないから」
「そうなんだ」

そんなに仕事が立て込んでいたのかと心配になる。
確かクラウドは、彼女と一緒に仲間の子供と引き取った孤児の子と一緒に暮らしているはずだった。
まるで家族のようだと、そう話していた会話をヘブンスヘブンで聞いたっけ。

「あたしが言えたことじゃないけど…あまり心配かけちゃダメだよ。大切な彼女さんも心配してる」
「…"彼女"?誰のことだ?」
「え?」
「ん?」

あたしの言葉に心底不思議そうな顔をするから混乱する。
だってクラウドは前を向いて歩き始めて、かつての仲間と歩み始めたんじゃなかったの?
歩みを止めたままなのはあたしだけ。
あの戦いを終えたクラウドは前を向いて、確かな未来を歩み始めたーーーそのはずなのに、目の前の彼は少しだけ切なそうに眉根を寄せている。

「…なまえ、俺はアンタのことがずっと昔から好きなんだ」
「……え?」

唐突だった。
目の前のクラウドがそう告げた瞬間の顔が真剣でとても嘘をついているようには思えない。
いや、そもそもクラウドがこんな嘘をつく人だなんて思ってないんだけど、それでも、突然すぎる言葉に脳内処理が追いつかない。
混乱するあたしを他所にクラウドは言葉を続ける。

「一般兵として神羅にいたときから、ずっとだ。なまえに会える日が楽しみで、タークスとして誇りを持って任務に向かうアンタが眩しかった。記憶が戻ってから真っ先に思ったんだ。なまえに相応しい男になるにはどうすればいいか…そう考えても答えは出なかった」

記憶がなかったと言う話は全部の戦いが終わった後で聞いた。
その話を聞いて、螺旋トンネルで最後の戦いを挑んだときの表情を思い出して、あたしと同じように戦いたくないと思ってくれていたのかとーーーそう思った時に、やっぱりクラウドはあたしが好きになった時のままなんだって、そう思った。
どこまでも優しくて、強くなりたいと努力を続けていた人。
どこまでも眩しい彼があたしは好きだった。
それは今でも変わらない。

「俺が前を向いて歩けるようになったのはかつての仲間たちだけじゃない。なまえが世界のために神羅として償おうとしていたからだ。そんななまえを支えたいって…そう思ったんだ」

気が付けばクラウドはあたしの手の届く距離にいて、そっと涙を拭ってくれた。
そこで泣いていたことに気付くぐらいで、そんなあたしのことをクラウドは愛おしげに見つめ、苦しそうに笑う。

いつからだろう。
そんな大人びた表情が出来るようになったのは。
自惚れてもいいのかな?
それがあたしの為だってーーーそう思ってもいいのかな。

「…あたしもずっとずっと、クラウドのことが好きだったよ。今でもずっと。あの頃から…神羅ビルで2人きりで会っていたあの頃から、ずっと」

あたしの言葉を受けて優しく抱きしめてくれた腕は、あの頃よりもずっと逞しくて力強いのに、ずっとずっと優しくて。
愛してるーーーそう呟いた彼の腕の中で、あたしはその幸せを噛みしめながら、自分も同じ気持ちだと伝えれば、幸せそうに嬉しそうに笑ってくれた。
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