穏やかな時間をキミと。

「なまえ!来てやったぞー」
「いらっしゃーい」

我が物顔で入るレノを笑顔で迎え入れるなまえ。
囚われの身となってだいぶ経ったなまえだったが、レノのおかげで楽しい日々を過ごすことが出来ているなと思う。
任務がある時以外は毎日やって来てくれる。
副社長に命じられた護衛も任務だから、当たり前なんだろうけどーーーそう思いながら珈琲を入れて持ってレノに差し出した。
もう、レノの好みの味も覚えるくらいだなぁと思わず笑みをもらしたなまえに「楽しそうだな?」と言いながらレノは珈琲を口にする。

「ううん。なんか、レノの好みの味もわかるくらい毎日会ってるんだなぁって思ったらおかしくて」
「…」

そう言って楽しそうに珈琲を口にするなまえを見ながら、レノが固まる。
なまえの言葉に他意がないのを理解しながらも、こういう発言をされると居た堪れない。
少なからず好意があるレノにとっては、だ。
それでも、楽しそうにしているなまえを見ているのは好きで、意外とこんな関係も気に入っていることに気付く。
最近のことを振り返ると、こんなにも穏やかな関係を異性と過ごしたのはいつ振りだろうと思い、考えるのを止める。
そんなことに考えを巡らせるよりも、今は目の前にいるなまえとの時間を大切にしたいーーーそんな柄にもないことを思うくらいには、きっとなまえとの関係を大切にしたいと思っているんだろう。

「レノ、何かいいことあった?」
「まぁな」
「副社長に褒められたとか?」
「…まぁそんなとこかもな、と」

あの時、護衛任務を任されたことを副社長には 感謝しなきゃなと思いながら、なまえの淹れてくれた珈琲を口にする。
本当に自分好みの味で、それほどまでに一緒にいたのかと思うとむず痒くなる。
こんな風になまえと穏やかな日を過ごすことになるなんてこと、出会ったあの日には想像もしていなかったからだ。

ふと、そう出会った頃のことを思い出していたレノになまえは「そうだ」とつぶやき立ち上がる。
何事かと思い、立ち上がったなまえを見上げるレノに微笑みを浮かべると、ソファーに無造作に置かれていたエプロンを手にした。

「これからお昼ごはん作ろうと思ってたの。レノ、何か食べたいものある?」
「なまえが作るのか、と。よく副社長が許してくれたな」
「だって飽きちゃったんだもん。勿論、ここのご飯は美味しいけど、することないから」

そう言いながらキッチンに向かい、冷蔵庫を開け材料と相談しながら作れるメニューを口にするなまえに、レノはぶっきらぼうに「なんでもいいぞ、と」と口にした。
そうしなければ、口元が緩みっぱなしになり格好がつかないからだ。
レノの言葉に「それが1番困るのに…」と口にしながら、メニューを考える。
そんな他愛もないやり取りが、まるで恋人同士みたいだと、そんな風に考えてしまうくらいには浮かれているんだろうとレノは思い、それ以上考えるのを止めて再び珈琲を口にした。



ーーーーーーーーーー



「おまたせー」
「お、美味そうじゃねぇか」

ソファーで雑誌を読んでいたレノを呼び、ダイニングテーブルの上に昼食を並べる。
嬉しそうに、そして美味しそうに食べてくれるレノに安心しながらなまえ自身も料理を口にする。
冷蔵庫の中にあった残り物で作った有り合わせのもの。
それでも美味しいと言って食べてくれる姿を見ると嬉しくなるのがわかる。

「レノ、そんなにお腹空いてた?おかわりもまだあるから、たくさん食べてってね」

思わず笑えば、レノは少し照れながらも「…おかわり」と口にし、なまえは再び嬉しそうにお皿を預かるとキッチンの奥へと消える。
レノはそんななまえを目で追いながら、再び口元が緩むのを抑えきれなかった。

ここにいる間は出来る限り、なまえが笑顔でいられるようにーーーそう願いながらも、結局その笑顔を誰よりも傍で見ていたいと思う。
結局は自分の為なんだと、そう自覚する。

「なまえの"オウジサマ"が来るまで…いや、来たとしても、俺の傍で笑ってて欲しいんだけどな、と」

そんなレノの呟きは誰にも聞こえることはなく、そっと穏やかな空間に溶け込んでいった。



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