ありったけの愛をキミに。 (前編)
今日は待ちに待った大切な日。
あたしは朝から浮かれっぱなしで、その度にティファに笑われてしまう。

七番街スラムの天国、セブンスヘブン。
そこを今日は朝から貸し切って、夕方のパーティーの準備をしている。
もちろん、クラウドには内緒。
朝からなんでも屋の依頼で外出中で、これもワイマーさんに協力してもらって何個かモンスター退治の依頼をしてもらうようにお願いしてある。
まぁ、クラウドの強さを考えたら、あっという間に片付けてしまう程度のモンスターなんだけど、時間稼ぎくらいにはなるはずだった。

「なまえ、ちょっと買い出しお願いしてもいい?」
「もちろん!何買えばいいかな?」
「今メモに書くわね…はい、これをお願いできる?」
「うん、行ってくるね」

ティファからメモを受け取り、買い出しに行く。
ビックスさんが荷物持ちを手伝うと言ってくれたけど、パーティーの準備にはまだまだ時間がかかりそうなので、大丈夫だと言ってお店を出た。

外に出て、改めてメモの内容を確認する。
アイテム屋さんと駅前のお店に行けば揃いそうな内容に、まずは駅前のお店へと向かう。



ーーーーーーーーーー



「ふぅ…やっぱり、ビックスさんに手伝って貰えば良かったかな…」

駅前のお店で買ったものが意外と多く、荷物を抱えながら、セブンスヘブンへの道を歩く。
1度荷物を置きつつ、準備の様子も確認したいなと思いながら、クラウドのことを考える。

驚いてくれるかな?喜んでくれるかな?
それとも、いつもみたいに「興味ないね」とか言うのかな?
そんなことを考えるだけで嬉しくなるし、幸せになれるから不思議だ。
少し重たい荷物も、浮かれる気持ちで気にならなくなる。

「きゃ!」
「いってーな。おいおい、姉ちゃん。この服の汚れ、どうしてくれるんだよ」

そんな浮かれる気持ちが、注意力を散漫にしてしまったらしい。
荷物を抱えていたため、目の前からくる男に気付かずぶつかってしまった。
ぶちまけてしまった荷物の中にあった果物が潰れ、男の洋服を汚してしまう。

「ごめんなさい、見えてなくて…あの、服は弁償しますから…」
「そういうことじゃねぇんだよなぁ。弁償すれば、謝れば許してもらえると思ってんのが、甘いんだよなぁ」
「ごめんなさい…でも、急いでて…。セブンスヘブンに一緒に来てもらってもいいですか?そこで、きゃ!」
「はぁ?だから、今、弁償しろって言ってんだよ。姉ちゃん、可愛いし?ちょっと一緒に来てもらうぞ」
「いや!離してください!」

残りの荷物も全て落としてしまい、無理矢理引っ張る男の腕を振りほどげずにいる。
ちょっと魔法を使ってしまおうかとも思ったけど、周りの人を巻き込みたくないし、これ以上騒ぎを大きくしたくない。
男はあたしの抵抗なんて物ともせず、こういうとき、自身の力のなさを痛感する。

抵抗も虚しく、ずるずると引きずられ、路地裏に連れ込まれそうになる。
これ以上はまずいーーーそう思って今装備しているマテリアを思い出しながら、魔法を唱えようと準備する。

「薄汚いその手を離せ」
「ぁあ?なんだ、テメェ!」
「いいから離せ。離さなければ、斬る」
「……チッ」
「きゃ!」

乱暴に振り解かれた手にバランスを崩し、転びそうになったところを抱き留められる。
抱き留めてくれたのは、不機嫌なクラウド。
ぼんやりと、もう仕事を終えてしまったのかとか、準備間に合ったかなとか、荷物のことを心配してしまう。

「怪我はないか?」
「うん…平気。ありがとう、クラウド」
「はぁ…なまえは隙があり過ぎる。だから、あんな男に付け入れられるんだ」
「今のは…あたしが考え事してよそ見してぶつかったのが悪かったんだもん。つけいられるとか、そういうんじゃ…」
「大体、あんな荷物抱えて…買い物なら、俺が依頼を片付けるまで待っていれば良かっただろ」

そう文句を言いながら、拾ってくれるクラウド。
結局、こういうところは優しいんだよね。
それでも、言葉の端々にトゲを感じ、少し悲しくなりながらも買った荷物を紙袋に戻していく。
潰れてしまった果物は買い直さなきゃな…と思っていると、クラウドが紙袋を抱えて歩き出す。

「あ、クラウド!荷物、返して!」
「なまえには重いだろ?それに、またアイツに絡まれたらどうする?」
「でも、クラウド依頼の途中でしょ?大丈夫だよ。セブンスヘブンに戻るだけだし、もう目と鼻の先だし…」
「もう終わった。報告は後でも構わない」
「で、でも…」

このままじゃ、クラウドへのサプライズがバレてしまう。
おそらく、準備はまだ終わってないだろうし、足りない買い物の中には食材もあったから、きっと料理の準備だって終わってない。
それでも、慌てるあたしを不機嫌そうに見ながら「セブンスヘブンだな」とクラウドは歩き出してしまう。
せっかく、みんなが協力してくれたのにと、なんとか時間まで引き延ばせないかと思い、扉に手をかけたクラウドの腕を引っ張る。

「待って、クラウド!」
「…どうした?」
「あ、あのね…そう、買い出し!まだ、買わなきゃいけないものと、買い直さなきゃいけないものがあるの。だから、付き合ってくれる?」
「この荷物は?」
「扉の前に置いておけばいいって、ティファ言ってたから!とにかく、行こう!」
「はぁ…で、何が必要なんだ?」

半ば強引なあたしの言葉に深くため息をつき荷物を近くのテーブルの上に置くと、さっさと階段を降りていく。
窓から覗きこみ荷物のことを合図すると、相変わらず不機嫌なクラウドを追いかけ、ひとまず駅前のお店へ向かおうと合図する。

「なまえ」
「ん?」
「危なっかしいから、1人で先に行くな」
「駅前に行くだけだよ。それに、今度はクラウドも一緒だし、大丈夫だよ」
「それでもだ」

そう言って、クラウドはあたしの手を握る。
しかも、恋人同士が繋ぐみたいに、指を絡めて。
突然のことに慌てていると、あたしから視線を外したクラウドの耳が赤くなっているのがわかった。
照れているのがあたしだけじゃないとわかると、少し嬉しくて思わず笑ってしまう。

「…笑うな」
「ふふ。じゃあ、クラウド。荷物持ち、お願いね」
「あぁ」
「あ、報酬考えなきゃね。なんでも屋さんだもんね」

そう言ってから、考え込むあたしを見ながらクラウドは笑って「報酬はいらない」と告げる。
戸惑うあたしに再び笑みを浮かべると、手を引いて歩き出してしまう。
頭の中にはハテナマークだらけだったけど、さっきまで少し不機嫌だったクラウドが楽しそうだったので、それもどうでもよくなってしまった。

きっとクラウドはあたしが、こんなに嬉しくて幸せになっているなんてこと、知らない。
クラウドにとっては、同郷の幼馴染が危なっかしいから、と言う理由、それしかないんだと思うけど。

それでもいいんだ。
誕生日なのに、あたしの方が幸せを貰ってしまった。
だったら、この後みんなでたくさんお祝いして、一緒にご馳走食べて、笑い合って、クラウドに幸せだったって思ってもらいたい。
きっと、彼が口にすることはないんだろうけど、 それでもいい。
大切なのは、クラウドにたくさんの「おめでとう」と「ありがとう」を伝えること。

そこに、ちょっとだけ隠した気持ち。
「だいすき」と言う気持ちを込めて。
アナタの幸せを祈るんだ。



ーーーーーーーーーー



おまけ。

「クラウド、やるー♪」
「だけど、あれ、無自覚だよな?」
「クラウドさんらしいっス」
「なまえもきっと、気付いてないのよね…。クラウドも、あんなになまえが幸せそうにしてるのにしてる意味はわかってないだろうし…」
「あーもう、焦ったい!クラウドってば、もう!」

そんな風に窓の外を覗く、アバランチのメンバーがいたとか、いないとか。



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