それでもいいと思える恋だった。
初めて、あんなに何もいらないくらい愛して、それなのに何もかも欲しかった。
いつか離れることになる結末しかないのに、アナタに惹かれることが止められなくて、好きの気持ちや愛情が溢れて止まらなかった。
恋が、愛が、怖いなんて思ったのは初めてで、アナタのことばかり考えて、アナタのことだけで満たされている日々が幸せだった。
だから、私はこれが最後の恋だって柄にもなく思ったの。
子供みたいだって思ったのよ?
まるで恋愛しかないみたいな、そんな子供みたいな感情だって。
恋愛が1番だなんて年齢はとっくに過ぎてしまったはずなのに、アナタに出会って、恋をして、恋人になって、愛を紡いで。
いつの間にか、それでもいいなんて思ったの。
でも、アナタがいなくなる日々を考えて怖くなって「嫌われる努力」なんてして、怒られたっけ。
それこそ、子供みたいだって、今なら思う。
あの時はただ自分を守るために必死だったのかもしれない。
「アンタを嫌いになる日なんて、来ない。だから、そんな風に自分を繕わないでくれ…本当に俺のことが嫌いなら、今すぐこの手を振りほどいてくれ」
バカみたいに泣きじゃくって、それでもアナタはーーークラウドは、あたしを「好きだ」と「愛してる」と言ってくれた。
あたしはそれだけで、満たされて、幸せで、永遠なんてないことを理解していたのに、こんなにも永遠を願ったのは初めてだった。
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初めて知った気持ちだった。
恋や愛がこんなにも苦しいことを、あんな戦いの日々では知る機会なんてなかった。
最初の印象は「変なヤツ」
しっかりしてるかと思いきや、子供っぽくはしゃいだりして、年上なのに年上っぽくなかった。
気が付けば目が離せなくなって、傍にいないと落ち着かなくて、触れたくて、欲しくてたまらなくて。
いつか離れる結末しかなくても、苦しむ結果しかなくても、それでもいいと思えた。
心に嘘をつくなんてことは、出来ないからだ。
「私が振り解けないの知ってるでしょ?もう、後戻り出来ないくらいアナタを…クラウドのことが好きになってしまっているのに」
俺と同じように離れる"瞬間"が怖くて、そうやって嫌われるように、態度を変えて。
俺が腹が立ったのは、俺自身であって、なまえにではなかった。
こんな風にさせてしまうくらい、子供なんだっていう現実を思い知らされたからだ。
もう、後戻り出来ないくらい、俺はお前を愛しているんだ。
怖いくらい、俺の中はお前でーーーなまえでいっぱいなんだ。
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アナタと離れて、どれくらいの時間が経ったかわからない。
あの"瞬間"は突然で、心の準備なんてする暇もないくらい一瞬の出来事だったっけ。
その瞬間に忘れられたら良かったのかな?
怖いくらい、今でも覚えているの。
アナタの匂いや仕草、その全てを。
抱きしめてくれた腕のぬくもりも、私にくれた言葉も、表情も、愛し合った数々も。
だから、今でもアナタを思って泣いてしまうの。
だって、私にとっては最後の恋だもの。
思いを伝えて、通じあって、確かに恋人だった。
忘れられるはずなんてないの。
独りになって考えて、思い出すくらい、しても良いでしょ?
「…でも、これだけは伝えられなかったな。クラウドの最後の人にして欲しいなんて…そんな縛る言葉」
そんな重たい言葉、年下のアナタに伝えることは出来なかった。
これから先きっと恋することもあるだろう。
私には出来なくても、アナタにはして欲しい。
"違う世界の女"に固執せずに、アナタはアナタの未来を生きて欲しい。
「…私の知らないところでなら、いいの。だって、例え"そう"なったとしても、もう2度と会うことも見ることもないもの」
そうやって大人でいたくて、少し悲劇のヒロインを気取りたくて。
私はアナタ以外と恋することも、愛することも出来ないくらい、クラウドばかりだけど。
それでもいいと思ったはずなのに、今日もアナタに会いたくてたまらない。
だから、今では消えてしまったアナタのぬくもり抱いて眠るの。
せめて、夢の中でもいいからアナタに会いたいと、そう願うことだけは許して欲しい。
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あれから、数年が過ぎた。
相変わらず、なまえのことは忘れられずにいる。
あの時間は奇跡で、今でも昨日のことのように思い出してしまう。
セフィロスと言う脅威から世界を救うことが出来て、復興が進む今でもだ。
なんでも屋の仕事が運び屋の仕事に変わり、再び脅威に晒された世界をかつての仲間と共に救った。
今も昔も救うなんて大袈裟で、ただ自身の戦いに決着を付ける結果、世界が救われただけの話だ。
ずるずると引きずりながら、今だって大丈夫な振りをしているだけ。
少しは軽くなったけど、まだまだ引きずっている。
なまえが居てくれたらと思うことは何度もあった。
そんなこと、叶いもしないことくらいわかっている。
未練がましく引きずって、それが聖痕症候群のきっかけになっていたことぐらい理解している。
世界を巡りながら、またなまえに会う手立てはないかと考えて、やめて、また考える。
あれだけ戻りたかった世界を、今は捨てたくて仕方ないなんておかしくて、こんなことを考えていたら、きっとなまえに怒られるだろう。
俺はなまえの「最後」になりたかった。
そんな子供みたいなこと、年上の彼女には格好悪くて言えなくて、今はなんで言えなかったんだって後悔している。
離れる結末しかない俺たちなら、その言葉でしか縛れないのに。
離れた今なら、彼女がどうなっていようと知る術はないのだから。
世界が繋がっているなら、きっと同じ空の下にいるだろう。
たとえ、世界の裏側でも会えるなら、声が聞けるなら良かったのだ。
「…なまえ。アンタは幸せか?俺はなまえがいない世界で…どう過ごしても物足りないんだ」
気が狂ってしまいそうな程に、苦しいなんて思わなかった。
だから、思い知ったんだ。
ああ。これは、きっと、一生に一度の燃えるような恋心。
忘れられぬほどの、全て捧げられるほどの、戻れなくてもいいと思えるほど、恋だったんだ。
「…なまえ」
願わくば、ただアンタが俺だけを愛して、これ以上ない恋で、最後の人であるようにと。
そんな子供みたいな、どす黒い、綺麗とは言えない恋心を許して欲しい。
俺はもう、アンタ以外を愛することなんて出来そうにないみたいだ。