ここ最近、私は随分と賑やかに過ごしてきたように思う。

「ねぇ、ミルの誕生日っていつなの?」
「あら、私の?」
「そういや、知らなかったな。」

それは、私が幼少期に修行のために閉じ籠っていて、決して明るいとは言えない時間を過ごしてきたからだと思う。

「そうね…今日は何日かしら?」
「8月10日、です」
「あら、今日ね。」
「えっ?!嘘?!」
「嘘じゃないわ、忘れてただけよ?」

だから、自分が生まれたってことがどんな意味を持っていて、周りにどんな影響を与えるのかを忘れていた。
まさか、こんなに騒がせてしまうなんて。

「忘れてたって…普通忘れねぇだろ…」
「そうね…私はよく知らないのよ、子供の頃は祝うだなんてしてこなかったから…」
「何故でしょうか」
「そんな暇があれば修行、と思っていたからかしら。」

祝っている時間があれば、同じように修行する時間がある。

「ふふ、恥ずかしいけど、バースデーパーティーの存在を知ったのはごく最近のことなのよ?」
「そんな…バースデーパーティーしたことないの?」
「そうね…そういえばされたことは無いわね…」

メイが、まるで自分のことのように落胆していた。
そんなにいいことなのかしら…

「よし、じゃあ今からパーティーするか!!」
「今から?!」
「そうだ。パーティーに遅いも早いもない!
リッキー!!何か…何か買いにいくぞ!!」
「何かって何だよ…」
「あっ!!私も行く!!」
「やれやれ、俺も行くよ。」

人の誕生日にこんなにはしゃぐなんて…皆は今まで、楽しい誕生日を迎えてきたのね。
何だか、わいわいはしゃぐ彼らを見ていて、私まで嬉しくなってきた。

「それじゃあ、私はここで待ってるわね。」
「うん!エリスも行く?」
「………いえ、私はここで待っています」
「そっか。じゃあ行くぞ!」

珍しく、リキトくんが張り切って先頭に立って歩いていった。
あっという間に、周りには私とエリスの二人だけとなった。

「エリスは良かったの?」
「はい
私はここにいます」
「…そう。」
「……………」

この子は、元々口数の多くない子だったけれど、今日はとくに少ない。
しかもエリスは、私が腰かけた切り株の周りを忙しなく動いていた。
どうしたのかしら。

「………………あの」
「うん?」
「花の冠って、どうやったらできるんですか」
「あぁ…えぇと…この花で作るのは難しいわね…」
「…そうですか」

ブチブチと、その辺の花を摘んでいた。
その茎は、細くて冠を作るには不向きだ。
冠、作りたいのかしら。
作れない、と伝えればあからさまに落胆した。

「でも…確か向こうにシロツメクサの花畑があったはずよ。
…行きたい?」
「!連れていってください!」
「良いわよ。行きましょうか。」

す、と手を差し出せば、小さな手で握り返してくれる。
この子は、辛いことがあってもこの小さな手で銃を構えてきたのだと思うと…すこし胸が痛くなった。
しばらく歩いた所に、小高い丘が現れる。
そこにはふわふわとシロツメクサが揺れていた。

「ここよ。」
「……作り方、教えてください」
「良いわ。
こうやって…ここに…」

おもむろにしゃがんで、ぶちりとシロツメクサを摘み、お手本を見せる。
エリスは、キラキラとした純粋な眼差しで手元を見つめていた。

「はい、これを繰り返すの。」
「ありがとうございます」

お手本の、作りかけの冠をエリスに手渡すと、黙々と作業に取りかかった。

「………ねぇ、エリス…」
「なんでしょう」
「誕生日って、嬉しいことなのかしら?」
「………」

一瞬、ピタッとエリスの手元が止まった。

「…………残念ながら、私にはわかりかねます」

でもそのあとすぐに冠を繋げ始めた。

「私も、誕生日を祝ってもらっていたのはほんの数年間でしたから」
「…そう、ごめんなさいね…」
「でも、皆さんと旅に出てからは、誕生日の大切さを痛感しています」

一度説明しただけなのに、するすると作られる冠に感心していると、エリスはぱっと顔をあげた。

「…勝手ながら、私は…あなたを…実の姉のように思っています
ですから…大切なあなたが生まれた日が、どんなに価値のある日か、計ることはできません
私に、立派なプレゼントは用意できませんでしたが…これを、受け取ってください…」

口数の多くないエリスが、珍しく懸命に話すのがどうも愛しく感じた。
小さな手で作られた小さな可愛らしい冠を受け取り、そっと頭に乗せた。

「ふふ、私には似合わないかもしれないけれど…とっても嬉しいわ。ありがとう、エリス。」
「…いえ」

エリスが微かに、口角を上げて笑う。

「誕生日って、良いものね。」

花の冠
(私の頭にはすこし小さな冠が、とても嬉しかった。)



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遅刻しましたごめんなさいミル様に殺されてくる



 
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