「は?明日?」
『どーせ暇だろ?俺んち来いよ!』

夜。
風呂から上がって、冷えた炭酸を飲みながらぼーっとしている至福の時間に、リッキーから急な電話があった。
慌てて電話をとれば、失礼極まりない言葉を投げかけられた。
どーせ暇ってなんだ。
暇だけど。

「良いけど。何すんだ?」
『えーっと。
川…遊び…?』
「はぁ?!お前いくつだよ!」

どうやらわが親友は、むさ苦しく男子高校生で集まって川遊びがしたいそうだ。
全くもう。

「水鉄砲はあんだろうな?」
『もちろん!』
「よし。行く。
何時に行けばいい?」
『12時!』
「了解。」

ぷちっと電話を切って、時代遅れだ何だと顰蹙を食らいまくっている黄色いガラケーをベッドに放り、タオルでガシガシ頭を拭いた。
開けっ放しの窓から夜風が入ってきて、一年中窓辺にぶら下げっぱなしのウィンドチャイムが鳴った。
あー、もう夏か。
ぼふっとベッドに飛び込み、髪の毛は生乾きのまま目を閉じた。

朝。
ウザったい振動で目が覚めた。

「…んぁ…」
『グレイ?おはよう!』
「…はよ…今何時…」
『11時30分、ちょうどだな。』

電話の相手はリッキーだった。
…あぶねぇ。遅刻するとこだった。

「おう。起きた。サンキュ。」
『昨日言い忘れてたんだけど、着替え持って来いよ!
全身ずぶぬれになるまで遊ぶんだろ?』
「…んー。おう。」
『おし。じゃあな。遅刻すんなよ!』
「おう。」

慌てて逆立っている髪の毛を直し、着替えてヘルメットを被って準備した。
ここからリッキーの家まで30分。ギリギリ間に合う。
普通にバイクに跨って、たらたら走り出した。

「…あ。」

たらたら走ってて、もうすぐリッキーの家だって時に着替えを忘れたのを思い出した。
ここまで来て引き返すのもなぁ…いやでもはしゃぐだろうしな…
…引き返そう。
ポッケから携帯を出して、リダイヤルのボタンを押した。

「もしもしリッキー?」
『おう!どうした?』
「わり、着替え忘れたから取りに帰るわ!
遅刻する!ゴメンな!」
『え?っちょ?!』

仕方ない。川遊びしたいし。
すぐさまUターンして、元来た道を戻った。

「…マジか…」
「あっ!グレイさん!ごめんなさいその子捕まえて!」

そして、絶句した。
近所のいつも遊んでやってる大型犬が俺を視界に入れた瞬間に物凄い勢いで小屋のフェンスをブチ破って飛び出してきた。
もちろん捕まえるのは簡単だけど、こいつが壊したフェンスの修復は相当かかりそうだ。

「こら!ダメだろ!フェンス壊しちゃ!!」
「ごめんなさい…また遊んでもらえると思ったのね…」
「…あぁ、今日はまだ遊んでなかったもんな…」

遊んでもらいたくて来たのか。可愛いやつめ。

「あー、俺、治しましょうか?」
「あら?いいの?!」
「えぇ、まぁ…たぶん俺の責任でもあるんで…」
「助かるわー!ありがとう!」

ごめんリッキー。すっげぇ遅刻する。
おちゃめなワンコの首根っこを掴んで、ぽいっと小屋に投げ込んでフェンスを補強してあげた。

「お礼に冷やし中華食べてかない?
ちょうどお昼時だし…」
「えっ今何時ですか?!」
「えっ?!1時よ?」
「すみません!すっごく魅力的なんですけど友達との約束があるんで失礼します!!
じゃあなもうフェンス壊すなよ!!」

聞けばもう約束の時間から1時間経っている。
やべぇリッキー怒るぞ。
急いで着替えを取ってきてバイクに跨り制限速度ギリギリで飛ばした。

「…寒気がする…」

飛ばすこと15分。
何とかリッキーの家にたどり着いたものの、何故かリッキーの部屋から感じる邪悪なオーラに背筋が凍った。
物凄く行きたくないが…これ以上待たせるのもなぁ…
駐車場にバイクを停めさせてもらい、偶々入るところだったマンションの人に着いてちゃっかりオートロックをクリアして邪悪な部屋のチャイムを押した。
ドドドド、と凄まじい足音を響かせて出てきたのは拓海だった。
あれ、なんでお前がここに?

「死ぬんじゃねーぞ。」
「え?!何?!はっ?!何だよ?!」
「“何だよ”?それはこっちのセリフよ。」

裸足のまま飛び出してきた拓海は、俺の両手を後ろでがっちり拘束しやがった。
外そうともがいていると、ドスの効いたミルの声が目の前から聞こえてきた。
…冷や汗が…!
ひらひらのスカートを穿いているはずなのに、ミルは片足を思い切り後ろに下げた。

「リキト君、あれを。」
「はい。」

ぽすん、とひょっこり顔だけ出したリッキーが構えたミルの手に白い何かを乗っけた。
そして野球選手顔負けの綺麗なフォームでその白い何かを投げつけた。俺の顔に。

「ハッピーバースデイ、グレイ。
主役が遅刻するのは頂けないけれど。」
「おめでとうグレイ!」
「おめでとう、ございます」

口に入ったその何か、は甘いクリームだった。
あれ、これ俗に言うパイ投げ?

…あ、今日、俺の誕生日だ。

I'm late! I'm late!
(遅刻だ遅刻だ主役が遅刻だ!)

柄にもなく、ちょっと照れくさくて、クリームで顔が隠れてるのをいいことに照れ笑いをした。

「…さんきゅ。」




*************
急ピッチで仕上げたグレイ誕生日記念。
後々手直しするかも。

ちなみに誕生日プレゼントは厳つい水鉄砲です。



 
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