おれとウソップは付き合っている。無論、恋人同士って意味でだ。
そりゃ、確かにおれはレディが好きで、あんな長ッ鼻の野郎とどうこうなるなんて夢にも思わなかった。だがそれも過去の話、まァ要するに、恋はいつでもハリケーン、だ。
あの長鼻は触り心地が良くて触ると文句を言いつつもくすぐったそうに笑うとこなんか誰よりもかわいいし、いまだにハグや手をつなぐなんてちょっとしたスキンシップにすら真っ赤になるとこはクソ愛しい。人懐っこくていろんな奴に好かれるのはいいところではあるが敵が増えたらとヒヤヒヤするのも本音ではあるわけで。
と、ここまで考えて、ひとつの疑問が浮上する。
「ウソップ、お前嫉妬とかしねェのか?」
そう、おれは自他ともに認めるレディ至上主義の紳士だ。世のレディはおれの全ての優先事項であり、無論、優しく接するべきだと思っている。ウソップと恋人になってからは勿論ウソップを優先しているとはいえ、身体に染み付いたレディへの接し方は変わらないし変えられない、もはや習慣みてェなもんだ。
だがウソップの方からそれに対する何かを言われたことはねェ。してはいるけど我慢している、ってこともあるが
こいつの専売特許であるネガティブからしたら、というより恋人同士だったら、やきもちのひとつやふたつあってもおかしくないと思う。実際、されたらおれは嬉しいんだが
「だからどーしてお前は本人に聞いちゃうかね…」
さっき淹れた紅茶を片手にはあ、と大袈裟にため息を吐く恋人。その顔にはでかでかと『呆れた』の文字がよく見える。
「どうして、って言われても、本人に聞くのが1番手っ取り早いじゃねェか」
いやそうかもしれねェけどそうじゃねェだろ!と本人曰く「華麗なツッコミ」を披露しながら
「大体、ンなこと言ってるサンジはどうなんだ?」
なんて聞いてきやがる、「おれなんかにしない」とか言ったら三枚にオロすからな
「ア?おれはお前に近付く野郎全員おれの敵だと思ってるけどな」
「怖!お前は一体なにと戦ってんの!?」
「そりゃ愛しの恋人に近づく人間なんざ大体敵視するだろうよ、そういうもんだ」
「お、おう、そうなのか」
あ、愛されてるなおれ…なんて頬を染めながら軽口を叩くさまはやっぱりクソかわいい。いい加減慣れそうなモンだが、初心だよなァ
嫉妬か…とさっきまでとは打って変わって呻き声を上げつつ腕を組み、考え込む仕草をする。そうは言いつつもちゃんと考えてくれる所も誠実で好きだ。
「そりゃまァサンジは女好きだし女とあればすぐメロリンするようなどうしようもない奴だけどさ」
「おい」
仮にも愛しの恋人に向かって酷い言いようだな、と返そうとした瞬間、既にぬるくなったであろう紅茶をゆっくりと口に運びながら
「それでも、レディじゃなくて、野郎でもなくて、おれが1番なんだろ?」
くい、と片眉を吊り上げて不敵な笑みを浮かべるそれは、以前の面影を残しつつも堂々とした狙撃の王の風格が伺える。ゴッド、なんて呼ばれるのも頷けるほどで
正直、かっこいいなんてモンじゃなく
「おっっっまえ………それは反則すぎだろ………」
首元からじわじわと熱くなっていくのを感じながら思わずカウンターに突っ伏す形になると、上からはいたずらが成功した子どものような、はたまた愛の言葉を囁いたあとの青年ような、少し照れたような恋人の声がかかる。
「へへ、惚れ直したか?」
その言葉が、その笑顔が、おれにしか見れないモノだと分かった瞬間、優越感と愛しさと少しの悔しさとがない交ぜになった何かが込み上げてきて、思わずカウンター越しにウソップを抱き締めていた。
ンなの元からだっての、この長ッ鼻!