サンサンと降り注ぐ太陽の光の反射で、キラキラと輝く海をサンジと並んで眺めていた。それは無数の宝石が輝いているようにも見えて、綺麗だった。
敵の襲撃もない、久しぶりの穏やかな午後の昼下がり。
さっきからサンジが、右手を上げたり下ろしたりを繰り返す。かと思えば、今度は自分の頭を掻いたりと、なんとも落ち着かない。おれまで気が散りそうだ。
「なんだよ、さっきから」
「いや……」
歯切れの悪いサンジに、おれは首を傾げる。それを見てサンジが「グハッ」と妙な声を上げて、鼻と口を手で塞ぐ。
「海を見てると、カヤたちのことを思い出しちまうな」
「この船をくれたお嬢様か」
「ああ」
今度村に来るときはウソみてェな冒険譚を聞かせてやるよと約束した。元気にやっているのだろうか。いや、きっと大丈夫だ。おれの意志を受け継ぐ、元ウソップ海賊団のあいつらが付いてるのだから。
「そんでな、いつも決まった時間におれがカヤの屋敷に行って、いろいろなウソの話を聞かせてやるんだ。それでも笑ってくれて、その笑顔でおれは……」
サンジによって言葉を遮られた。
突然、後ろから抱きしめられたかと思うと、おれの肩に顔を埋める。
「サンジ?」
おれの問いかけにも応じない。サンジの髪が首筋をくすぐってくる。何も話そうとしないサンジが口を開くのを待つ間、気持ちの良い潮風を堪能していた。
「……なのか……」
サンジがぼそぼそと小声で何かを囁いた。聞き取ることが出来ずおれが聞き返すと「好きなのか」と今度ははっきりと耳に届く声で呟いた。誰がとは言わないぜ、それを聞くのは野暮ってやつだ。おれは口元でフッと笑った。
「おれにとってカヤは大切な友達で妹だ」
サンジはさらに痛いくらいにおれを抱きしめてきた。いつもやきもちを焼くのはおれだった。サンジが可愛い女の子に甘い言葉を囁いたり、エスコートする姿を目にするたびに心が波立った。その都度、おれは勇敢なる海の戦士になる男なのだからそのくらい平気でいろと、自分にカツを入れた。
それが今は逆の立場だ。思わず顔がにやけるが、仕方がない。やきもちを焼くということは、おれを好きだという証だ。
ヤバイ、たまらなく嬉しい。
もしかしたらサンジはおれが焼くのを知ってて、わざと女の子たちに優しくしていたのだろうか。そんなおれを見て喜んでいたとしたら癪に障るが、すべて水に流そう。
そんなことを考えてたら、サンジが小さな声でおれの名前を呼んだ。それに応えるように小さく身を捩ると抱きしめられていた腕の力が緩んだので、おれは彼と向かい合って綺麗な瞳を見つめた。
サンジの腕がおれを囲うように両手を腰に回してきたので、自然におれの両手はコイツの胸に触れる。
「この旅が終わったら、お前の故郷に一緒に行かないか?」
サンジ……。お前、それって……。
「カヤを口説く気か!?」
「オロすぞ」
サンジの低い声が降ってきて「ひいっ」と小さな悲鳴を上げてしまった。鬼の形相でおれを見下ろてくる彼に、命もここまでかと悟る。
「この流れで何でわからねェ!何枚にオロされてェんだコラァ!!!」
「ご……ごめん……」
ヘナヘナと座り込みながら謝ると、おれを蹴るために上げていた足を下した。
危ねェ。あのまま蹴られていたら今頃、海の中に落ちていることだろう。あの蹴りは無傷じゃいられねェ。傷を負い、さらに海に落とされるのは勘弁してほしい、傷口に沁みるんだよ。
サンジが手すりに凭れながら、面倒臭そうにライターで新しい煙草に火をつけて、煙を吐き出す。
「おれは未来の話をしたつもりだ」
「未来?」
「お前との未来だ」
突然の言葉に目を白黒させた。サンジが海を眺めながら、おれの頭に左手を置いた。
「お前の故郷で、お前のためだけに飯を作ってやる」
サンジの言葉が胸に響き、自然に涙がこぼれた。
プロポーズと受け取っていいんだな、サンジ。
肩を震わせてしゃくりあげるおれを、サンジがしゃがんで優しく抱きしめてくれる。
「キザ野郎!!チキショオ!!!」
これ以上泣き顔を見られたくなくて、涙で濡れる顔をサンジの肩に埋めた。