作品 | ナノ


15

 あいつを見てると、なんだか苦しくなる。

「ナぁぁぁミすわぁぁぁぁぁんっ!ロビンちゅわぁぁぁぁぁんっ!おやつだよぉぉぉぉぉっ!」
 ぐるんぐるん回って二人が休んでるデッキチェアに行き、跪いて手に持つトレイを差し出すサンジ。
 なかなか様になっている。ぐるんぐるん回ってたところ以外は。
「ありがとう、サンジ」
「ありがとサンジ君。ちょうどお茶飲みたかったところなの」
 嬉しそうなナミに紅茶を、ロビンにはコーヒーを渡し、お茶菓子に置いたのはツヤツヤ綺麗なトリュフチョコレート。
 いいなァ。女はサンジにあんな特別扱いされて。
 別に女になりたいとかは思ったりはしないけど。
「ロビンちゃんのコーヒーと、ナミさんのダージリンの渋みにも良く合う甘さに仕上げております」
「ありがと。いただきまーす」
「流石ねサンジ。とっても美味しいわ」
 あぁやって、自分の好みに合わせた特別なおやつを用意してもらえるって、羨ましい。
 サンジにちゃんと見てもらえてることだから。
「ロビンちゃんに褒めてもらえるなんて!嬉しいなァ〜〜〜〜」
 褒められて嬉しそうなサンジはタコかイカかってくらいぐねんぐねんし、おれの視線に気付いてかこっちに振り返った。
「なんだウソップ。いくら見たって野郎の分はねェぞ」
 女達へのメロメロ笑顔や声じゃなく、剣呑に睨む低い声。
 いくら女が好きとは言え、男相手にここまで態度変えることなくねーかな。
「………わかってるよ。それくらい」
 特別扱いされたいって思ったところで、無駄だってことくらい。



 あいつを見てると、ムカッ腹が立ってくる。

「すっげェなフランキー!完璧な出来じゃねーかっ!」
「だろォ!?」
 甲板の上で、ウソップとフランキーがよくわからねェ金属の塊を弄って盛り上がっている。
 開発とやらのどこが楽しいのかわからねェが、紙とペンやら機械やらを挟んで頭突き合わせてああでもねェこうでもねェと話し合ってる時のウソップの目はいつもキラッキラしてて。
 あんな目を至近距離から向けられるのがあのクソロボだけだってのが、本当、クソムカつく。
「ここにお前がこの間作ってた細工を組み込んだらスゥーパァーに威力も増して…」
「え、でもここに組み込むとしたらちょっとスペース足りねェかも。これ以上の小型化は無理なんだ」
「だとすると、ここを…」
「なるほどなァ!流石だぜ」
 ガチャガチャと楽しそうに工具握ってよくわからねェ金属の塊に何か入れたり出したり楽しそうな二人のもとに、ジュースを持って行く。
 差し入れくらいしか出来ねェが、おれもその場所にいたくて。
「おい」
 と声をかければ、
「げ、サンジ!」
 おれに気付いたウソップが慌てておれと金属の間に立ち塞がる。
「サンジは触るなよ!すーぐ壊しちまうんだから!」
「…チッ」
 おれはキラッキラ笑顔どころか敵扱いかよ。
「………わーってるよ」
 そのキラキラにいくら手ェ伸ばしたところで、届かねェってことくらい。



 あいつを見てると、なんか落ち着かなくなる。

「テメェこのクソマリモ!」
「アァ!?なんだとクソコック!」
 気持ち悪ィ顔してんのを教えてやっただけじゃねェかと横っ面を蹴られて青筋を立ててるゾロが刀を振るい、テメェなんかに気持ち悪ィ顔なんて言われたかねェんだよとサンジが足を振るう。
 本当にあいつら、仲良いよなァ。逆の意味で。
 毎日毎日何かしらで突っかかりあって本気の喧嘩ばっかしてさ。
 メリーに乗ってた時はいつメリーが壊されるかわかんねェし実際壊されたりしたしで、おれは毎日デッカイ声出して怒って止めに入ってたっけ。
 でも今はサニー号で、腕の良い船大工もいて、おれの出番は一切無いわけで。
 冷静にあいつらの喧嘩を観察すらできるようになった。
 そして気付いた、イライラ怒ってる二人の目の奥の子供みたいな輝き。
 何度も潜り抜けた修羅場の中で見てきたものと、まったく同じだ。
 それがちょっと羨ましくて。
「おいお前らー。ほどほどにしとけよー……ぶぉっ!?」
 メリーの時と比べて生温く注意するおれに飛んできた、ゾロに避けられたサンジの蹴り。おれの自慢の長
っ鼻に触れる間一髪手前でピタリと止まった。
「悪ィなウソップ。大丈夫か」
「あ、おう…」
「後で茶でも出してやるよ。離れてろ」
 一応蹴りそうになっちまったお詫びってことらしい。
 いそいそと喧嘩に戻ってくサンジの背中を見送り「おぅ」と小さく頷いた。
 楽しそうだよなァ、ゾロと喧嘩してる時のサンジ。
 お互いにイライラしてムカついてぶつかり合ってるように見えてさ、ストレス発散し合ってる感じ。
 おれにはできない。おれはゾロみたく強くねェし、サンジもおれに対してあんな風に怒ったりしねェし。
 メリーがいない今、飛び込んで行くことすらできねェ。
「ウソップ!離れてろっつってんだろ!」
「…わかってるよっ」
 おれはまだ弱くて臆病だってことくらい。



 あいつを見てると、クソイライラしてくる。

「ルフィ〜!そんな竿振り回したら魚が釣れるどころか逃げ出すだろ!」
「だってよォ〜。おれ飽きちまったよ」
「しょーがねーだろ。アクアリウムの魚がだいぶ減っちまったんだから。食い物無くなったらルフィだって困るだろ?」
「困る!」
「ウソップ〜!角に糸が絡まった〜!」
「うおおチョッパー!なんつー芸術的な絡まり方してんだ!」
 ガキみてェな三人が揃って船縁で釣り糸垂らして騒いでやがる。
 あんなクソ五月蝿くして魚がかかるのか甚だ疑問だが、あいつらが素手で触ってやがる気味悪ィ虫を付けときゃなんとかなるらしい。
 それにしても仲良いよなァ、あいつら。楽しそうなこった。
 毎日毎日飽きもせずにいつも一緒に遊んだり釣りしたり昼寝したり。
 コックとしての仕事もあるしそんな柄でも無ェおれは、いつもそれを眺めてるばっかりで。
「お?サンジ!釣り気になるのか?」
「クソ当たり前だろ。お前らが釣ってんのはこの船の食料だぞ」
 チョッパーの角に絡まってる釣り糸を解いたウソップに手招きされ、二歩、三歩だけ近寄る。あいつの隣に気味悪ィ系の虫が蠢く箱があるのを知っているから。
「気になるなら、たまにはサンジも一緒にどうだ?おれ、竿貸すぞ?」
 親切心の塊のような目でチョッパーに竿を差し出され、おれは首を横に振って断った。
「あー、サンジは虫触れねェからな」
 無理だなと言うウソップに、胸がなんかぎゅっとなる。
 おれだって、あいつの隣で釣りがしてェ。一緒に遊んだり昼寝したり、してみてェ。
 でもそんな、おれの柄じゃねェことなんて。
「釣れたらサンジに見せに行くから、キッチンで待ってろよ」
「…わかってる」
 本当はただ逃げてるだけだってことくらい。



 無駄だとか、手が届かないだとか、臆病なままで逃げてるくせに。
 一丁前にやきもち焼いて。
 あいつはまだ、おれのものじゃないのに。
(でもおれは、既にあいつのものだ)

「お待たせサンジ!見てくれよ、なかなかデカイ魚だろ!」
「来たかウソップ。すげェじゃねェか。クソ美味そうだ」
 釣果を携え子供のように目をキラキラさせてウソップがキッチンに行けば、煙草からハート型の煙を燻らせたサンジが嬉しそうに受け取る。
「あー、おれ、喉渇いちまった」
「さっき茶ァ淹れる約束したろ。ほら、飲んでけ」
「やったー!うまほー!」
 仕草で外の暑さも訴え無言で冷たいお茶を求めるウソップと、既に見越してアイスティーにハート型のクッキーをいくつか添えて出すサンジ。
 それが普段のサンジらしくないことに、揃って気付いていない。

 あいつはまだ、おれのものじゃない。
 でも、なんとなく感じる。
 あいつは本当は、とっくにおれのもの。



「もー、じれったい!いつになったらくっつくのよあいつら!」
「ナミ。気持ちはわかるけど落ち着いて?きっともう少しよ」



回答ページ

[ top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -