作品 | ナノ


10

そもそもはコイツが悪りィんだ、おれは悪くねェ

「なんだ?言いてェことがあんなら口で言え口で、普段から無駄によく回る舌はどうしたよ」

側から見たらおれが一方的に喧嘩売ってるように見えんだろうなァ、なんて思いながら、「無駄は余計だ無駄は!」とガーガー吠える恋人を睨むと「別に…毎度毎度飽きもせず。って呆れちゃいるけどよ、あ、あとよくまあそんな賞賛の単語出てくるなァって感心はしてる、語彙力すげェよなお前」ときたもんだ。

ちげェ!そうじゃねェだろクソッ鼻が!!

恋人のお前を差し置いて、見ず知らずの美しいレディ達に傅いてんだぞ?

否、麗しきレディはこの世の宝だ、女神であり何にも変え難き美という事象そのものだ。
女神達が微笑まれるだけで雲間からは光が差し羽が降り花々は咲き乱れ…兎に角レディ達は、尊いものであり、全身全霊をもって尽くすべき存在。
何をおいても敬い傅くものであり、それはおれの価値観のすべてでアイデンティティといっても過言じゃない。

が、買い出し兼デートの途中で恋人おっぽり出してまで会うレディ会うレディに賛辞を述べるおれに何か言うことはねェのかてめェには
おれの恋人はお前で、お前の恋人はおれだろうが!

なんでテメェは妬かねェんだ!!

我ながらクッソ勝手なことを言っている自覚はある。

が、この鼻の長いキュート且つセクシーで、時にひどく漢前のクソ野朗なおれの恋人は、毎度上陸する度おれが吹かせるラブハリケーンに始終シラけた瞳を向け、ひでェ時にはそのまま「ごゆっくり〜」なんつって荷物担いで先に宿へ帰っちまう時もある。
や、最近じゃ手慣れすぎて気づいたらもういねェ時もある。

恋人のおれを置いて!おれに一言も無しに!

確かにおれはレディが好きだ、大好きだ、それは否定しねェしする気もねェ。

が、女神達と恋人は別次元の存在だ。

レディという女神の存在はおれの生きる上で重要な活力であり明日への希望だ。

そして恋人であるウソップ。

奴は、おれの命そのものだ。

そこらのチャチなラブストーリーなんざ比べ物にならない艱難辛苦乗り越えて、時に死ぬ目に遭って、それでも離すまい失うまいと命がけで、言葉通り死にものぐるいで手に入れた、何者にも変え難いおれの恋人。

毎度メロメロとレディ達に突撃かますおれを見て「あーあー、またやってるよ」だの「サンジくんサンジくん、控えめに言って超キモい。女の子達引いてるから」だの時に呆れ、時に苦笑いをしながらおれの側にいてくれる。

物分かりの良い、理解ある恋人を持てておれは非常に幸せモンだ。

が!しかし!物分かりが良すぎるのもどうなんだこの野郎。

そこはちったァヤキモチ焼いてくれてもバチは当たらねェんじゃねェか?

おれ、恋人ぞ?テメェの彼氏ぞ?

そんな思いを抱えて今日もまた、上陸先で出会った1人の女神に賛辞を述べまくっていたらコレだ。
おれの語彙力云々よりもおれがお前以外に目移りしてるって事実に目を向けやがれ!

そんなおれの苛立ちを知ってか知らずか、買い出しは終わったし宿は同じ場所とってるからまた後でな。と、瞬く間に別行動を取りやがった奴の鼻っ面を掴み損ねたおれは、薄情な恋人への当てつけも兼ねて、目の前の女神の手を取り微笑みかける。

おれに微笑みかけられた女神は、僅かに引きつったようなぎこちない笑みを浮かべたが、恥ずかしがり屋なのだろうか、そんなお顔も慎ましやかでソーキュートだ!



「おれというスパダリがいながら、本当にテメーは薄情な奴だな。」

あの後、本当にウソップはおれと別行動を取りやがった。
残念ながらこの後用事があると仰る女神と名残惜しくもお別れし、さてヤツはどこいった?と探しても探しても見つかりゃしねェ。
マジでおれを置いていきやがったのだこのクソッ鼻は。

とっぷり日も暮れてから漸く宿に戻ってきた無情な恋人にそう恨み節をぶつければ。

「え?それお前が言っちゃう?!うわァ…ないわ〜、それはねーよ、女を口説かないと死ぬ病のサンジ君」

「あァ?!」

「犬に猫になれとか言っても無理だろ?そんな無理強い、おれはしねェし、そんなんで神経すり減らす馬鹿な真似はしたくねェの」

市場で手に入れたらしい、新しい絵の具やら工具やらネジやらガラス玉やらの有象無象を一つ一つ丁寧にしまいこみながら軽い口調で言い放つ愛しの鼻野郎の姿に、おれはガツンと頭を殴られた様な感覚に襲われる。

こンのヤロ、おれを犬猫と同列にしやがって!
クソムカつくその頭に踵をお見舞いしてやろうと足を上げーーかけたが、突如湧いた虚しさに止めた。

本当に、お前はおれがレディとイチャつこうが何しようが、興味はねェんだな。
それだけ信頼されてるといやァ言えなくもねェが、浮気するとは思わねェのかよ、ムカつきもしねェのかよ。おれはお前にとって、恋人じゃねェのかよ?

「あーあー、そうだよお前はそういう奴だよなクソったれが、寛容な恋人様持てて世界一幸せモンだおれァよ、そりゃ嫉妬なんざハナッからねェ訳だ」

負け惜しみの様なセリフに、てめェで更に胸糞を悪くしながら非人情な恋人を押しのける。
今日はもう、さっさと風呂入って寝ちまおう、久方ぶりの2人っきりの時間?知るかンなモン、クソ喰らえだ、おれは今非常に傷ついてんだよこのクソアモーレ。
他でもねェテメーのせいだ、甘い夜なんざ誰がやるか。

身から出た錆?自業自得?クソ承知だよ畜生め。だから余計に腹が立つんだろうが。

…ヤベェ泣きそう。

気を紛らわせる為にもドスドスと足音荒くバスルームに向かった時。

「嫉妬…してるよ」

ぼそり、と

通り過ぎ様に耳に届いた言葉

「…あ?」

それに振り返るより先に肩を掴まれ、そのままダンッ!と音を立てて壁に押し付けられるおれの体。

所謂壁ドンというものをされていた。

「痛ってェ!テメッ!何しやがるこのクソッぱ…」

対して痛くはなかったが、普段のウソップらしかぬ乱暴な振る舞いに、ウソップのくせに生意気じゃねェか、と思わず声を荒げたおれの言葉は、眼前の真っ暗な瞳に封殺された。

「してるよ、嫉妬。そんなの、毎日、毎回…それがお前の性質だってちゃんとわかってるし、いつもの事だって慣れる気もある。お前のおれへの気持ちだって信じてる…けど、だけど…仲間はいいよ、でもお前が声かける女全員、死ねばいいって思ってるし、殺してやりたいって思う時がある…おれは、女じゃねェんだもの」

普段よりも低い声色、暗く光のない黒い双眸がおれを射る。

「ちゃんと分かってる、お前の女好きは習性みたいなモンだし、騎士道精神とか優しさの表れなんだってのも理解してる。…けど、ダメだ…おれは心が狭めェから、許せねェって…思っちまうし、恋人信じきれねェ自分が本当、ダメな奴だって嫌になるし…悪い時はお前まで、憎んじまう時がある。だから、いつもの事だって言い聞かせて、サッサとその場から離れて、見ないように、考えないようにしてたのに…なんでっ…なんでそんなこというんだよ…っ!」

じわ、と真っ黒なデカい目の焦点が鈍く揺らいで?

「お前殺しちまえば、もうこんな思いしないで済むかなって、でもお前が死んじまったら、おれも死ぬしかねェし…夢も、やりたい事も、欲しいもんだって沢山あるのに、お前が居なくなったら全部色褪せちまう…おれの生きてる意味全部消えちまうんだ…おれを、殺さないでくれ…ッ」

ぼろり、と溢れた滴が一つ、二つ、床にいびつな水玉を描いてー

おれは全てを理解した。

ああ、ヤベェ。

ゾクリ、と背筋を駆け登ったのは恐怖でも嫌悪でも無い。

コイツはもう、おれ無しじゃ成り立たねェんだ、おれ以外を愛する事を放棄しちまったんだ。

おれと同じように。

背筋を震わせたソレは歓喜。
即絶頂モンのとんでもなく深い充実感。

そのまま、見られたくない。とばかりに素早く離れようとする体を引き戻し、腕の中に閉じ込める

「悪かった…悪かった、ごめん。ごめんなウソップ」

「サ…〜ッ!?ンンッ」

抵抗も皆まで許さず甘やかに塞いでやれば、癇癪のように引っかかれ掴まれる背中と噛まれる唇。
その痛みさえも甘んじて受ける。

「ガキみてェな事した。お前に執着されたくて、てめェを棚に上げて拗ねた。お前は、こんなにおれに惚れてくれてんのに…悪かった、お前に殺されるなら、おれは本望だ」

「馬鹿やろっ…言いたくなかったのにっ!重いって、思われたくねェから我慢して…っう、うぅ、う〜っ」

おれの胸に顔を埋めて嗚咽する姿に、少しの罪悪感を感じながらも笑みが止まらない。

「クソ上等。潰せ、お前のクソ重たい愛と執着で早くおれを潰してくれよ。お前こそおれの執着ナメんなよ?浮気なんかしてみろ、監禁して、少しずつ切り取って食ってやる」

抱きついて来る腕が強くなる。
おいマジか、本当に食っちまっていいんだな?お前はおれの、おれはお前の、それでいいんだな?

「ごめんなウソップ」

悲しませた事か、これからもきっと嫉妬させてしまう事か、それでも離してやれないおれの勝手な執着にか、何に対しての「ごめん」なのか、きっと全部だろう謝罪を囁いて、おれは腕の中の恋人をより一層強く抱いた。


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