作品 | ナノ


09

真っ暗闇の部屋の中、ベッドの上で柔らかな寝息を立てる恋人はほろりと砕けて溶けてしまいそうで。
「ウソップ。」
小さく名前を呼んで、ひとり口付けた。


「おはよう、サンジ。」
大きな欠伸をしながら目元を擦るウソップに、宿屋の部屋についた簡易キッチンで朝食を作る。
「今日はなんだ?」
なんて手元を覗く丸い瞳に、腰に絡まる腕が愛おしくて堪らなくて。
「先に顔洗ってこい。」
そう、わざとぶっきらぼうに呟いて、フライパンの中のホットケーキをぽんとひっくり返した。

カーテンを開いた窓からは既に高く上がった太陽の光が溢れていて。こんなにのんびりとした午前は久々なのでは、と考えてサラダを盛り付ける。
洗面所から戻ってきた恋人のはだけたバスローブを整えて、デザートのヨーグルトムースをテーブルに並べれば、きらきらと輝いた瞳が子供ぽくて可愛くて。
もし、ふたりきりならこんな朝を毎日過ごせるのだろうかと、ふと考えた。


事の発端は、サニー号で過ごす普通の午後。
奇妙な花達に水をやるウソップに、何故だか心が惹かれて、胸の奥が苦しくなって。波打つ髪を撫でる潮風すら憎く思えた。
「次の島に着いたら、ふたりで宿をとらないか。」
驚いた様に見開いた瞳に、いきなりのことに混乱しているらしいその表情に、タイミングを誤っただろうかと掴んでいた手首を離そうとすれば。
「いいぞ。」
嬉しげに色付いた頬に、ぱっと煌めいた笑顔。
なぜ、とも問わず幸せそうに微笑んだ恋人に、また胸の奥がちくりとして。どろりと濁った心が溶けた気がした。


「サンジは食べないのか?」
頬を膨らませ、きょとんとしたウソップの口端にはホットケーキに添えていたクリームとラズベリージャム。白に鮮やかな赤が眩しいそれを拭ってやりながら
「胸がいっぱいなんだ。」
なんてほろりと溢れた言葉に苦笑すれば、小首を傾げむむっと唇を尖らせた愛しい人。こちらを探る様にまっすぐ向けられた視線にすら蕩けてしまいそうで、思い付いたと言わんばかりに、にっと笑った白い歯に
「おれと一緒だからか?」
告げられた言葉すら、呑み込んでしまいたい程に恋しくて。
「そうかもな。」
細めた瞳に、隠れて吐息をついた。

食べ終えた料理に、備え付けられていた簡易食器を流しに運べば、普段以上に甘えたな相手の体温にほっとして。それでいて、どこか焦りも覚えて。
「ウソップ。」
そっと囁いた声は何故かざらついている気がして。粗目のようだと独り言ちた。
「ウソップ。」
繰り返した名に見上げてくる瞳は、まるで誰も知らぬ甘い果実。静かに触れた頬はマシュマロのように白く柔らかで、唇はさくらんぼ。飴細工を思わせる睫毛の揺れに我慢なんてできなくて。
何も言わずに抱き上げた身体を寝室に運んで、ベッドに降ろす。その甘く蕩けるような人を独り占めしたくて。
少し皺の残るシーツが皿ならば、愛しい人を包むバスローブは純白のクリーム。
胸焼けしそうだと考えながらも止まった手に、真っ赤な頬が目について。纏められていたはずの髪をさらりと解く指先に、泳ぐ視線は少し不安げなのに、それは嫌悪を示しているわけではないようで。

小さく溢れた言葉に胸が掴まれれば、もうどうしようもなくて。
「いただきます。」
柔らかに返した言葉に細い肩を倒して、身を重ねた。


煌めく花々に、柔らかに揺れる黒い髪。その全てが世界に愛されすぎている気がして。
ただ、ただ、おれだけに。
そう願って、独り善がりにふたりきりを求めたのに。

ベッドの上での言葉はおれの全てを受け入れていて。
自分が特別なのだと思い上がるには充分で。

重ねた唇に、もう一度と強請って。真っ赤になって繰り返される言葉に泣きたくなる程、幸福を得て。

「なァ、ウソップ。」
そう密着した身体で潤んだ目尻を撫でれば、また魔法の言葉を恋い焦がれた。




「どうぞ、召し上がれ。」



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