カチャカチャトンテンカン
夕飯の支度のためにキッチンに一人で立つおれの後ろで音が聞こえる。
それは紛れもなく台所のすぐそばに簡易的に作られた作業場、ウソップ工場からだ。最初はその主がおれに色々とくだらないホラ話やらなんやらしゃべったりしていたが。
ぐつぐつと良い具合になった鍋の火を消すタイミングでちらりと後ろに目線をやってみるもそいつはおれに背を向けて作業に没頭している。
それがおれにはなんだか面白くない。
「おい、長っ鼻ちょっと手伝え」
「……」
よっぽど集中してるのか珍しくおれの声がけに反応しない。
いつもなら、特に恋人になってからはおれのこの声がけにしょうがないなサンジくんは、と渋々みたいな態度をとりながらも横に並んで嬉しそうにするくせに。
確かに先程、手に持てる特大パチンコを作って今までより更に遠距離を狙える武器を開発するんだと
自慢気に話していた。恋人としてコイツのやりたいことを優先的にさせてやるようにはしてやりたいとは思っているが、やはりなんだか大変面白くない。
おれの機嫌も大変よろしくない。
おれは苛立ちを隠さず大きめの声をかけた
「…おい、ウソップ!」
しまった。
自分が思った以上に苛立ちを乗せた低い声になってしまった。
怖がらせたいわけでは…と焦ったおれだったが。
「……」
それすら聞こえてないようだ
自分の口角が苛立ちでヒクヒクしていることに気付く。
なんならわかりやすく額に怒りマークも添えられているだろう。仮にも恋人だというのにそれはかなり面白くない。
おれの機嫌もかなりよろしくない。
確かにおれは女好きだが、そのおれがこんなひょろっちい嘘つきなお調子者の長っ鼻と付き合ったのは気紛れじゃない。美しい花を愛でるより長い鼻と笑い合うことを選んだことをコイツは今だに夢のように思っているらしいが、好きになっただけあって性欲くらいある。
しかしこの恥ずかしがりやで小心者な長鼻の恋人は待ったをかける。心の準備をしたいから今度!と、脱兎のごとく逃げる。そんな初なとこも恥ずかしがりやなとこも嫌いではない。むしろかわいいと思ってる。だからそうかしょうがないか待ってやろうじゃないかと、我慢をしていた。
今日までは。
あとは盛り付けだけになった料理を置いてそいつの胡座をかいた高さに合わせて真正面にドカッとヤンキー座りをした。だがそれでも下を向いて作業をしているからか気付かない。
「…てめェが悪い」
だからおれはその苛立ちのままその長い鼻を強引にグイッと右手でつかみあげた
「いでぇっ!?」
急な鼻への痛みと顔をあげさせられた驚きに目を白黒させていつも以上の面白い顔をざまあみろと愉快に眺めながらおれはそいつの唇に自分の唇を合わせた
「サ…ンんぅ??!」
驚きうっすら開いた口の隙間からついでにぬるっと舌もいれてみる。
初めてのキスがこんなタイミングで更にベロチューなのはいかがなものなのだろうか…とは思いつつも、まあ恋人のことを無視したコイツのせいだおれのせいじゃない。と完全な責任転嫁をしながら
このあとめちゃくちゃ初チュー堪能した。
そして数分後、
ぜえはあぜえはあとお互い酸素の足りない頭に空気を巡らせながら、顔を見合わせた。
そいつの顔は真っ赤っかで目は潤んで涙が滲んでいて、総じて言うならおれだけしか拝めない拝めさせたくない、そんなバカみたいに面白い顔をしていた。
「ウソップ」
「…なんだよォ」
おれの肩に頭を埋めたそいつの頭を撫でながらソっと抱きしめて
おれ自身もそいつの肩に顔を埋めてグリグリ攻撃してやった。
「夕飯手伝えって何度も声かけたのに気づかないお前が悪い」
「…もしかしてそれで今…?」
「…」
「…さみしがり屋め」
「…恥ずかしがり屋め」
「……」
「……」
ブフッと二人同時に吹き出して、笑いながらそいつの手がおれの背中にまわって控えめにぎゅっと服を掴まれた。そして先ほどのお返しと言わんばかりに肩に頭をグリグリと押し付けられたのを感じてまたクスクス笑う。
夕飯が冷める前に、あと少しだけ