01


最近出会い、同じマウンドに立つことになった扱いにくい投手から聞いた何気ない日常話。俺はその話しを思い出し、周囲を見回した。…と言うのは、投手である三橋には幼馴染がいるという何気ない会話だった。
群馬で誘われ、一緒に来たというあいつの幼馴染。
あのおどおどした性格には慣れているであろうその幼馴染が気になっている、というのが俺の今の現状だったりする。
そして俺が今、なぜ周囲を見回しているかというと、勘の鋭い奴はすぐに気付くだろう。
どうやら俺と同じ組らしい。
(それっぽい奴…いたか?)
三橋が言うには"優しくて頼れてカッコイイ幼馴染"らしい。そして女子。なんで女子なんだよ。
(女子…ねぇ)
三橋が女子とつるんでいるなんて想像できないし、優しいと頼れるはともかくかっこいいってのはある意味気になる。
かっこいいとは何がかっこいいのだろうか。性格?それとも、容姿?
沸々と湧き上がる疑問は止めどない。気になって仕方がないのだ。
(確か…名前、だっけ。)
三橋に聞いた名前を心の中でぽつり、と呟きながらも浅い溜め息が零れ落ちる。
つい最近クラスメイトと顔を合わせたのだから分らないのは仕方がないのだろうが、見つかる気がしない。
苗字が分かるならともかく、名前だけというのは……女子なのだから相当難しい。男子ならどれだけ楽なことか。
頬杖を付きながらも目の前の黒板を睨みつけるように俺は目を細めた。
これじゃあ気になって授業に集中できなさそうだ。
時計を見れば授業まであと5分を切る。
机から次の授業である英語の教科書とノートを取り出し、一緒に取り出した筆箱を机に置く。
そういえば英語、宿題あったな、と思いパラパラと前回開いた教科書のページを開き、チェックをしていたはずの問題を探せばいつも通り、前回の授業中で宿題を終わらせていたらしく心配無用だ。
ノートを開き、筆箱からシャーペンを取り出そうとしたところで阿部君、と俺を呼ぶ声が聞こえた。
隣を見れば、隣の席に座り俺を呼んだらしき人物がこちらを見ていた。
どうしたの?と尋ねれば英語の宿題どこだっけ、と質問が返ってくる。
答えの書き終えた教科書を見て、ページ数と問題番号を言えばありがとうと返事が返ってきた。
(そういえば、こいつなんて名前だっけ。)
よくよく考えてみれば隣の席だというのに名前を覚えていないことに気がつく。
隣の席の奴ぐらいは覚えてないと、名前なんだっけ、と思考を巡らせながらも横目で見てみれば視線が合った。
「?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
相手は俺の名前を覚えてた相手に名前なんだっけ?と聞くのは失礼だよな、と妙な遠慮で俺は視線を前に逸らした。
その姿を見ていたらしく隣から小さな笑い声が聞こえた気がした。
「俺は苗字って言うんだ。よろしくな、阿部君?」
バレてた。
少し恥ずかしくなりながらもおう、と返せば目の端で苗字が笑うのが見えた。
声を押し殺したように静かに笑う苗字は妙に大人びて見える。
「阿部君って確か野球部だったよね?」
「あ、ああ。そうだけど、なんで知ってんの?」
「俺の幼馴染も野球部入ったんだ。それでよく話聞くからさ、名前覚えてたんだよ。」
「そうだったんだ。」
何かが、引っかかった気がした。
幼馴染。確かに苗字はそう言った。
苗字の性別は何だ?
…ズボンはいてるけどうちの学校は生憎指定服ではない。
一人称は俺。
でも、声は中世的…だった。
まさか、と思う。
あまりにも中世的すぎて気付かなかったけど、もしかして苗字は女…だったりするのだろうか。
………気になる。…なんて聞こう。
どちらにしろこの状況で聞くにはあまりにも失礼な気がして喉元で息を詰まらせる。
そんな俺に気付いたのか、苗字は苦笑しつつも頬を掻いた。
「…阿部君、俺一応こう見えても女なんだ。」
気を遣わせてしまった。
というかその前に顔に出していたらしい俺、かなり失礼だ。
「ご、ごめん。」
「いいよ、別に。よくあるし、分かっててやってるし。」
そう言って苗字はまた笑顔を浮かべる。
「ごめん。気付くかなって思って遊びすぎた。俺、苗字名前っていうの。改めてよろしく」

苗字名前。
優しくて頼れてカッコイイ幼馴染――それは、中世的で、大人びてて、気遣いができる――短時間の間で、三橋の言葉がよく分かった気がした。


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