行き交う人ごみをかき分け、目的を果たしていく。
「おじさん、たこ焼きひとつ!」
両手にぶら下がるビニール袋には、焼きそばにいか焼き、お好み焼きにリンゴ飴などところ狭しと入っている。
屋台の光を後ろ手に買ったばかりのたこ焼きを頬張る。
さっきまでいた神社から少し離れた高台にある公園につけば、ベンチに腰をおろした。
しばらくすれば、ドン!という大きな音と同時に夜空に大輪が咲いた。
「たまやー」
自分以外誰もいないはずの公園から声がする。
だれだ、あたしの特等席にやってきたのは!
焼きそばを頬張りながら、声のした方に顔をむけた。
きっと凄く眉間に皺がよってると思う。
「久しぶりだね、みょうじ」
「あれ、まさか佐伯?
うっそ、会うの中学卒業して以来だね」
「そうだね。みょうじが元気そうでなにより、それもらってもいいかな?」
お好み焼きを手渡し、ベンチにふたり並んで花火を見上げる。
「ひとりで食べるには買いすぎじゃない?」
「今日は特別。
それにしてもここが穴場なのよく知ってたね」
「ああ、実は神社でみょうじらしき人見かけて気になったからついてきたんだ」
それ立派なストーカーですよ。
でも、気づかなかった私もおかしいか。
食べ終えた焼きそばのパックを片して、明るく照らされてる夜空を見上げる。
横では佐伯が私のお好み焼きを食べてる。
ああ、こんなことになるならもう一個買っとくんだった。
「ねえ、今度の週末ひまだったりする?
実は大会があるんだけど、見にきてくれないかな」
「なんで私が。
私じゃなくて、もっと可愛い子誘いなよ。
佐伯ならよりどりみどりでしょう」
「俺はみょうじにきてもらいたいんだ」
力強い眼差しに飲み込まれそうだった。
だめかな?と遠慮がちに言う佐伯にぶんぶん、と首を横に振れば、なら約束と指切りされた。
自分より大きな手に、佐伯も男の人なんだと思わずにはいられなかった。
速くなる鼓動に気づかない振りをして、花火を見る。
ベンチに投げ出していた手があたたかさを感じた。
佐伯の手が重なり、手を握られていることを理解したのはしばらくしてからだった。
「さ、佐伯?」
「ねえ、みょうじ。
だめじゃん、俺をフリーにしちゃ」
抱き寄せられたかと思うと、目の前に広がった佐伯の顔。
花火の音がやけに遠く感じる。
そっと佐伯の背に腕をまわした。
「だめじゃん、佐伯。
私をフリーにしちゃ」
夜空に咲く花火の下、私はもう一度まぶたをおろした。
110831
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