「俺は君たちを許した覚えはないよ。次なにか彼女たちにしたらただじゃおかないから」 その場で泣き崩れ始める。 正直、腹の中が煮えるほど怒りが込み上げている。しかし、ふたりが何もないと言ったのだから俺たちが手を出すわけにはいかない。 「よく聞け。今回は何もなかったことにしてやる。だが、二度物騒なことするんじゃねえ」 「刃物を向けるなど言語道断、たるんどる!!」 「ご、ごめんなさい…わたし…」 涙でぐちゃぐちゃの顔のまま声を絞り出す女子生徒たち。 「せっかく先輩たちからチャンスもらったんだからやり直せば」 「越前、たまにはいいこと言うじゃねーか」 「ケッ、てめえとは違げーんだよ」 「んだと海堂やんのか、ごら」 ふたりが守ってくれたテニス部。俺たちも大切にしなきゃいけないな。 「ふたりとも喧嘩は止めて下さい」 「仕方ない奴らだ、樺地」 「ウス」 「それじゃあ僕たちは失礼するよ」 そう言ってレギュラーたちも屋上を出ていく。 「……な、泣いてなんていられませんわよ」 「そうですわ…もう一度やり直しましょう。さあ、各テニス部員ファンクラブを集めて!」 「斗未がキレたときはどうなるかと思ったよぉ」 「心配かけてごめん、でも大丈夫だよ。あの頃のあたしには戻らないって決めたから…」 弱々しく笑い返すと、後ろからみんなが走ってきた。 「越前たちから一通りのことは聞いた。俺たちのせいですまなかった」 「斗未先輩、あの…さっきの動き…」 「う、うちお腹減った!跡部の奢りで何か食べに行こうよ!」 「しょえがねえな、着いてきな」 あたしのために気ぃきかせてくれたんだ…。 「那璃、サンキュー」 「気にしないでよ、ほら行こっ」 「何か隠しているいるな」 「ああ。貞治、ひとつ調べてみるか」 *** 場所は変わって跡部邸。 なんだこれ。家?いや寧ろ城だろ。 「てか本当にご馳走用意できるとかさすが跡部って感じだよね」 「普通ありえないでしょ」 「跡部じゃけんのう、それよか怪我がなくてよかったぜよ」 仁王がわしゃわしゃと頭を撫でた。その手があまりにもあたたかかった。 「なんじゃ、斗未そんなに感動したか」 「なんか嬉しくて…みんなこんなに心配してくれるなんて思わなかった…」 「心配すんのは当たり前だろぃ」 「そうだよ、ふたりとも俺たちの仲間だCー」 「そういうことぜよ」 「あはは、ありがとう!!」 「ちょっといいかな」 寮に帰り、部屋でゆっくりしていると精市が訪ねてきた。散歩ついでに外へと出ると、急に抱きしめられた。 「せ、精市?!」 「ごめん…結局俺は何も出来なかった。何があっても止めるべきだった」 肩に顔を埋めているため表情はわからないけど、精市が後悔してることだけは伝わってきた。 「赤也から聞いたよ、俺のせいで斗未を危険なめに合わせてしまった」 「違うよ、誰のせいでもないよ。ただちょっと擦れ違っただけ。言ったでしょ、何もなかったって」 抱きしめられている腕に力が入ったのがわかった。 「優しいんだね。ひとつ聞いていいかい?」 「何か俺たちに隠しているよね」 まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。 頭が真っ白になって、凄く動揺していることが自分でもわかった。 唇をぎゅっと噛み締める。 自然と斗未の身体が硬直したのがわかった。同時に俺の服を握りしめた。 「ま、だ言えない。もう少し待って。いつかいつか必ず言うから、だから、」 「無理はしなくていい。ごめん、追い詰めるつもりはないんだ。斗未、俺はどんなことがあっても見方だから。それだけは覚えておいて」 静かに頷き、手をとって寮に戻り始める。 「…斗未」 たまたま窓から外を見たら幸村と斗未が抱き合っているのが見えた。と言っても幸村が抱き着いたんじゃろうがな。 胸の奥が締め付けられるように痛み、イライラする。これ以上見たくなくて、カーテンをひいた。 「なにやっとるんじゃ、俺は…」 ふたりを見ていて、今までにも同じようなことは何度かあった。俺に限ってありえんと思っとったがそうではなかったらしい。 今までそれなりに女とは付き合ったり、遊んだりしてきた。しかし、こんな気持ちになったんは斗未が始めてじゃった。 「不思議じゃな」 幸村には負けてられんの。 それに、斗未はこういうことには鈍いらしい。まだ、俺にもチャンスがあるってことじゃな。 「渡さんぜよ」 まだまだ騒がしい日常は始まったばかり next 加筆修正11.01.21 |