ハッピーバレンタイン! 仁王




「なまえー」


「ちょ、におっ!重た…いっ」


休み時間ブン太と新製品のお菓子を食べながら話してたら、仁王に後ろから抱きしめられた。


わお、周りのお嬢様たちがこわい。ああ、やだやだ。


「授業さぼってるのはいつもだけど、これはなに?」


「なまえの匂いがする」


「変態。ブン太もなにか言ってやって……て、なに全部食べきってんのよ!あたしのポッキーは?!」


机には既にお菓子のゴミしかない。


「いつも以上に今日は頑張ってんな」


「そりゃアレも近いからのぅ」


「まあ、俺は食えりゃいいけど」


あたしのポッキーは無視かよ。いや、会話についてけない。アレってなんだ、アレって?!


「考えてる、考えてる」


「そういうとこが可愛いんじゃけどな」


「でしょ、照れるぅー」


「調子にのりなさんな」


「仁王が言ったくせに」


「お前さんはノリがいいけんのぅ。つい、な。じゃ、期待しちょるぜよ」


「ん?あー、はい」


とは言ったもののわからない!
数日考えに考えたけど、なにかあった?


いい加減、考えるのも飽きてきたよ。


「て、ことだ!」


「いや、めんどくさいからって楽しようとすんなよ!」


「だって、もう怠いし」


ブン太に助けを求めたら、それはそれは冷たい目で見られた。てか呆れられてるんだけど、なんで?


「はあ…14日はなんの日でしょうか?」


「……………ば、バレンタイン?」


「だろぃ。チョコ好きのなまえがバレンタイン忘れるとか俺も驚いたぜ」


「ふ、不覚だ…」


がくっ、とうなだれる。痛っ、机で頭打った。


「なまえ、ようやくわかったみたいじゃの」


「バレンタイン忘れるとか…ショック」


うなだれてると、肩を叩かれた。


「なに?」


「楽しみにしとぉよ」


満面の笑みで言われた。いや、テニス部ならあたしから貰わなくても山程もらえるだろうに。


ちくしょー。なんだかんだモテるからな、こいつら。


「まる聞こえじゃよ。俺はなまえだから欲しいんよ」


「はあ…」








で、作ってきたんだけど…


「なんでどこにもいないの?!」


言ってきたのそっちじゃない。他の子も血眼になって探してる。


「ブン太ー、て相変わらず凄い数だね」


「まあ天才的だからな」


「ならあたしのはいらないねー」


紙袋から手作りのクッキーを取り出し、残念そうに肩を竦めてみる。


「ブン太がいらないなら俺がもらおうかな」


「いきなりあたしの背後に立たないで下さい。幸村のはこれね」


「毒入ってないよね」


「なら返せ」


「ふふ、冗談だよ」


「なまえー、俺の…」


「あ、柳に真田!はい、ハッピーバレンタイン!」


「すまないな、ありがとう」


「うむ、有り難く頂く」


ちょっとブン太が可哀相になったからブン太にも渡せば喜んでその場で食べてくれた。


面と向かって美味しい、て言われると照れるね。


仁王の場所を聞いてみたけどみんなわからないとしか答えがかえってこなかった。


みんなと別れた後、柳生やジャッカルにもクッキーを渡しつつ仁王を探すもいっこうに見当たらない。


放課後になってもみつからない。窓の外はオレンジ色に変わってきた。


ふらっと屋上のドアを開けた。冷たい風が肌をさす。


紙袋から綺麗にラッピングした箱を取り出す。リボンをといて、箱を開ける。


ただじっと見つめてまた箱を閉じた。紙袋に元あったように戻し、床に置いた。


「……どこにいるのよ」


「なまえ、」


背中に伝わる体温。一日中探してた声が耳元から聞こえる。


「怒っちょる?」


「…さあね」


「女子から逃げとったんじゃ」


「テニス部の皆様はモテますものね。今年も大収穫だったんでしょ」


「なまえ、だから」


「だからなに?!あたしには関係ないんだからっ!」


ダンッ!


近くにあった壁に押し付けられる。


「なに勘違いしてるか知らんが、関係大ありじゃよ」


「はなしてよっ」


「なまえは俺が今日一日隠れとった理由わかっちょらん!俺は他の女の物なんかいらん。なまえのだけ欲しいんじゃよ」


引き寄せられ、強く抱きしめられる。


「なによ、それ……」


「そのまんまの意味ぜよ。幸村たちに渡しとったのも本当は嫌じゃった。俺だけ見て欲しかった」


仁王の身体が震えてる。らしくないよ、あたしの知ってる仁王じゃない。


「独占欲丸出し。詐欺師の名が泣くよ」


「なまえの前だけじゃ」


「でなきゃ許さないんだから」


足元の紙袋を掴み、仁王に渡す。


「仁王には特別に作ったんだから」


「ブラウニーか?」


「あんま自信ないけど」


仁王がブラウニーを手に取って、口に運ぶ。ひとつひとつの仕種が色っぽい。


「ん、うまい」


「あの、さっきはごめん。あたし…」


「気にしなさんな。元は俺が悪かったんじゃけ」


「ですよねー」


「冗談きついぜよ」


ふたりして笑えば、さっきの気持ちも嘘みたいにはれていた。


「なまえ、好いとうよ」


「ずっとその言葉待ってたんだから」


ちょっと背伸びして触れるだけのキスをする。


「俺もまだまだじゃの」


「だね、ペテン師さん」


「そろそろ帰るか」


手から伝わるふたり分の体温。
繋がった気持ち。バレンタインの甘い雰囲気にやられたのかもしれない。




バレンタインの奇跡


たまにはこんなのもアリかもしれない。






100215










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