「ちょっとの間だけ我慢してね、すぐ戻って来るから」
手足は後ろで固く縛られ、使われていない倉庫の中に押し込まれる。
真っ暗。何も見えない。口には布があり、しゃべることも出来ない。
「そんなに暴れて、離れたくないんだね」
「――!!」
やめて、触らないで。もがけばもがくほど自ら身体を痛めつけてしまう。皮膚がすれて、血が滲む。
「大丈夫、俺はここにいるからね」
違う、いつからこんなに歪んでしまったの……
あの頃の精市はどこに行ったの…?
「なまえは俺だけのものだ。誰にも渡さないよ」
必死に涙を流しながら、首をふる彼女。そんな姿さえ愛おしい。
彼女の手首に滲む血を舐める。なまえの身体が硬直したのがわかる。
ああ、その身も心も全て俺だけのもの。誰にも渡さない、触らせたくない。閉じ込めておかなければ、きっと君は蝶のように俺の元から飛び立ってしまうから。
「そんな顔したってそそるだけだよ」
あたしの好きな精市に戻って…。
涙もとうに枯れてしまった。そのまま目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、優しい彼の笑顔。
「なまえ、」
布がとられ、幾分呼吸がしやすくなった。目をあければ、精市の腕の中にいた。
「……せ、いち」
泣いてる。精市が泣いてる。引き寄せ、強く抱きしめられる。
「……ごめん、なまえ」
こんなことしなくても、あたしは精市の傍にいるのに。どうして彼はこんなにも不安でたまらないんだろう。
傷つけたくないのに、自分の中にいるもう一人の自分がなまえを傷つけてしまう。
こんなにも愛してるのに、不安で、彼女がどう思っているのか恐くてたまらない。
「泣かないで……」
そう言い少し笑えば、彼も微笑んだ。
「あたしはここにいるから。どこにもいかないから…」
「精市、愛してる……」
泣きそうな笑顔に、キスをした狂ってしまうほど愛してる09.09.26
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