幸せが降る頃に

僕は中等部に学園の生徒会で書記に選ばれてから早くも五年は経過して、今では副会長を務めている。
誰からも信頼され、見本となる生徒会はカリスマ性溢れる会長を筆頭に実力を発揮していたのだが、今では面影すら失いつつある。


それは、この学園にやってきた一人の男によって起こされた。


顔の半分以上を隠す鬘だろうボサボサの髪に汚ならしい厚みのある丸眼鏡、大きな声。誰にでもタメ口で常識のない彼は真っ先に嫌われ者となり、また人気者に好かれた。僕も本当はそうだった。
学園では普通であったことを、自分のことを否定するかの言葉は、しかしながら新鮮で喜びすら湧いてくるようで。だが目の前の溜まりまくった書類の山を見れば夢は覚めた。


溜まりにたまった書類を処理するために生徒会室に缶詰め状態になりながらも、時折課題をもらうために職員室や教室にも行って。
どれだけほかの役員に訴えても無意味であり、更には転校生に「遊んでいる」と言われてしまえば馬鹿みたいに取り巻きも便乗して。


ああ、もうだめかも。


そう思ったときに彼に出会った。彼は三好といって、転校生に連れ回されている可哀想な男だ。そんなこと自分に言えたものではないが、取り巻きが邪魔にする上に転校生を利用して人気者に近付いている、更には転校生にはできないからと全てとばっちりで制裁を受けていた。
そんな制裁現場にまさかまさかの遭遇をしてしまって、その流れで助けることにした。そして、何の縁か疲れきった僕を見かねたらしい教師からの推薦で補佐になった。


三好は学園で一番頭のいい生徒だったのだ。


「副会長、もう休んでください。こっちはもう終わりましたんで」


今は相変わらず溜まった書類を片付けている。はぁーっとため息を吐きながら眼鏡を外し、眉間を揉むように触っていると三好が休むよう促すが任せてしまうのは申し訳ない。


「僕もキリのいいところまで…」

「その書類の期限は随分先ですよね?なら、休んでも大丈夫ですよね」


何でもお見通しかと苦笑いしながら礼を述べ、ソファーに腰を掛ける。三好が淹れてくれたホットミルクを飲むと蜂蜜の甘みが口に広がる。
落ち着くなぁと呆けていると背後に気配がして、振り向くよりも先に伸びてきた手に動きを止めた。


「み、よし…」

「眠かったら寝てもいいですよ。ちゃんと時間には起こします」


優しく髪を梳る手が気持ちよくて、そのまま促されるよう瞼を落としていく。


「おやすみなさい。だ……で、すよ……」


三好が何と言ったのか眠りにつく僕はわからない。唇に柔らかい何かが触れた気がしたけれども、意味はわからないが幸せな気持ちのまま夢の世界に意識を飛ばすのだった。



戻る
×