食堂イベントは回避で


どうしてこうなった。


穂南が転校生のことを話してから数時間後、自室で一人で頭を抱えていた。
あれから穂南の笑顔を胡散臭いと告げた転校生の話に興味を持った香坂が、なら今日の夕飯時に食堂に行こうと一方的な約束を取り付けてきた。なんという王道展開。しかし穂南は気づいてしまったのだ…王道展開は嫌な方へ進むと、ただでさえ忙しい生徒会の仕事を怠らせる元凶にしかならないのだと。


「何で今になって気づいちゃったんだよおおおおっ…いや、早く気づけてよかったのか?くっそ、これじゃ今まで読んでいたのも苦労を考えたら萌えなくなるかも…これは阻止しなければ!」


ガックリと床に手をついた穂南は、とりあえず腐男子仲間の親衛隊隊長に食堂イベントを伝えておいた。


「でも真面目な生徒会だから仕事を放り投げることはしないだろうしな…それに王道展開の変装受けが間近で見れたら嬉しいし。なーやーむーっ!!」


あわあわと部屋の中を歩き回っていると、トンッと肩を軽く叩かれた。


「仕事溜まるようなら俺がいるだろ?」


手伝うぜ、そう告げた爽やかな笑みを浮かべるのが幼なじみであり親衛隊隊長の織部宗助だ。
ちなみに穂南の自室があるのは役員持ちの生徒専用の階だが、訪れることが出来ない訳ではない。彼らが許可した生徒ならこの階を訪れることは出来るし、また彼らが本当に信頼できる生徒のカードキーで部屋を開けることが出来るようにも設定できるのだ。逆も然り、だ。


「アンチは俺も嫌かな。だから生徒会が仕事しなくなったら全力でバックアップする。でもよ…今の生徒会はそんな心配なさそうだけど」

「そうなんだけどさぁ。…とりあえず、やっぱり食堂は行かないからね!」

「はいはい。とりあえず晩飯作るから座ってろ」


宗助の実家は料亭、その息子である宗助の腕前もプロ顔負け。おそらくメールでイベントと共に食堂には行かないかもというのを伝えていたから、始めから作ってくれるつもりだったのだろう。宗助は早くも材料を取り出して調理を開始した。


「いいのか宗助。お前の大好きな王道展開だぞー?」

「確かに俺も腐男子と言われるけどな、別にそこまで好きな訳じゃねぇよ?姉貴のせいだからな」


トントンとリズムよく切っていく音を耳にしながら、穂南はため息をついた。
その後、マナーモードにしていた携帯電話が鳴り響き何だ何だと画面を見ると風紀委員長である葉月和馬から『会長が転校生と騒ぎを起こした。どうにかしろ』というメールをいただきさぁ大変。嫌な予感ほど当たるのだ。


が、次の日はみんな普通に生徒会室に来ているのだから何があったのだと疑問に思うばかりである。もし一人で動くことになったらすぐにバックアップしてもらえるよう隊長の宗助と、副隊長の小早川弥生にはお願いしていたが、予想外である。ちなみに小早川は腐男子である俺の本当の性格を知っている数少ない後輩である。

(あれ、みんな転校生には夢中じゃないの?王道は??あ、もしかして仕事はしろって怒られたのかな???)

とりあえず席について二人にメールをしたのはいいが気になる。


「あの、みなさん昨夜は食堂で何があったんでしょうか?葉月から連絡があったのですが…」


そう伝えると藤堂のこめかみがピクリと動いた。ああ、しくじった。彼らは犬猿の仲だというのに名前を出すんじゃなかったと後悔しても時すでに遅し。藤堂は仮眠室へと籠ってしまうし、気まずい雰囲気になった。


「ふくかいちょー、だめだよ」

「…はい、迂闊でした。ところで何があったのですか?」


香坂ならと思って聞いたのだが、秘密とウィンクをして交わされてしまった。ほかの役員も香坂に続いて教室に行ってしまったので聞くに聞けなくなるのだった。


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