王道くん現れる


待ちに待った転校生とのご対面に、穂南は朝からわくわくとしていた。
気持ちが高ぶっているため、いつもは微笑むだけだが一般生徒に挨拶も交わしていた。彼らも気付いたらしく「雨宮様は今日はご機嫌だね」なんて言葉が聞こえてくる。

(早く来ないかな、生王道が見れるんだよ!)

気付けば予定時間の間近になっていて、慌てて生徒会室を後にした。


「えー、来ないんだけど」


約束の時間から既に30分は経過していた。腕時計と携帯電話の双方で時刻を確認するも、やはり約束の時間なんてとっくに迎えていた。
まさか自分が聞き間違えたのか。あり得ないだろう失態に頭を抱えそうになると、ドスンッと大きな音が物陰から聞こえてきた。そして、そこから現れたのは。


「痛ってぇーっ!なんだよ此処っ、ずっと門は閉まってるし塀は高いしでおかしいだろっ!!」

「………王道だぁ」


あの証明写真と同じ明らかに変装だとわかる格好をした男であった。

(というかマジか、塀を登ったのかよ!?)

ツッコミ所はたくさんあるのだが、それらを顔に出そうとはせずにいつもの微笑みを浮かべて話しかける。


「君が転校生の谷原馨君かな。私は「あーっ!!誰だお前っ?!」…えー、」


どうやら転校生は王道だとか騒ぐ以前に、これはリアルだと自分の苦手なタイプだったのかもしれないと感じた。しかしここで挫けてはいけないと、再び気合いを入れ直して転校生に向き合った。


「ご挨拶が遅れました。私はこの学園の生徒会副会長を務めさせていただいている雨宮穂南と申します」

「穂南か、よろしくな!あと、その胡散臭い笑いはやめた方がいいぞ?俺が友達になってやる!!」

「そう、ですか?あの、谷原君。出来れば苗字で呼んでいただきたいのですが…」

「馨って呼べよ!それとそんな他人行儀じゃ友達出来ないぞっ。俺がお前の親友になってやるからな!」


穂南に対して何かと注意をしてくる谷原に、諦め混じりに頷いた穂南はさっさと理事長室へと案内を始めることにした。

(まさか、こんなに王道って言葉が当てはまる人間なんてね…演技も下手って言われてるよ俺)

正直疲れたと感じる穂南は理事長室まで案内すると、中でのお茶に誘われたのを丁寧に断りを入れて生徒会室へと戻っていった。


「お帰りなさい。なんだか疲れているようですが大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。心配させてしまい申し訳ありません」


中へ入ると庶務の草薙と書記の綾鷹だけが仕事をしていた。今の時間は授業中なのだが生徒会は授業免除の特権があるため、こうして仕事をすることが出来るのだ。


「雨宮、………これ」

「ん?ああ、ありがとう」


草薙が紅茶を淹れに立ち上がると、自身のデスクから移動してきた綾鷹から小さなチョコレートの包みを渡された。


「甘い…疲れ、飛ぶ」

「そうですね。お気遣いありがとうございます」


甘いものを食べると疲れが吹き飛ぶから、そう単語単語での会話だが伝えてくれる綾鷹に微笑んで有難く受け取ると、頷いて彼はデスクへと戻っていった。
入れ違いに現れた草薙が二人に紅茶を渡して、穂南はほっと息をついた


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