プロローグ


山奥に建てられた金持ちの子息ばかりが通う男子校。生徒会や風紀委員は新聞部主催の抱きたい・抱かれたいランキングにて選ばれ、兼ねてから双方は仲が悪いと評判である。
役職持ちやランキング上位者には親衛隊というものを持っており、不条理にその人に近付いたりすると制裁を下す過激派もいる。中にはその親衛隊をセフレとして扱う人間もいた。

(王道学園、だよね!)

そんなわけで、このように妄想の塊の中で日々生活をしている雨宮穂南。この学園の生徒会副会長を勤めている。見た目は作り笑いを浮かべた(周りは気付いていない)爽やか王子様だけど中身は腐男子である。


「雨宮、この書類頼む」

「はい。わかりました。では、会長はこちらの資料をお願いします」


一人称は私、常に敬語で話すようにしたのは副会長に選ばれたことがきっかけで始めた。


―――あれは、一年前。


それなりに有名な家柄の一人息子である穂南。高校生となるのを目の前に父親から伝えられたのは、今通っている蒼羽学園への入学に関することだった。なんでも雨宮家の長男は必ず通うことになっているらしい。

そして入学をしたらあれよこれよと男子校生に囲まれて噂になり、気付けば待っていました人気投票。腐男子である穂南は楽しみで仕方がなかった。しかし、待っていたのは予想外の出来事で。そう、自身が抱きたいランキングの1位となっていたのだ。そして―――


「副会長に、選ばれた…」


これはやるしかない、そう思った穂南が実行したのが現の爽やか王子様を演じるということであった。

別に演技力は悪くはないが感情が出やすいため、あえて作り笑いを浮かべ続けようと決めた。しかし出来ることなら無表情の氷の王子様(笑)と呼ばれてみたかったと感じた穂南であった。


「えっ、転校生ですか…何でまた中途半端な時期に」


手渡された資料には確かに転校生と書かれた文字、そしてプロフィール。


「俺も知らねぇが理事長の甥っ子だそうだ」


俺様生徒会長の藤堂絢也から受け取った書類には“王道一直線”な証明写真が貼られていた。穂南は密かに心の中でガッツポーズをした。


「あり得ないよねぇ。マジ気持ち悪い見た目だしぃ」

「香坂、人を見た目だけで判断するべきではありませんよ。…しかし、汚い字ですね」


後に意見を述べたのはチャラ男会計の香坂暁で、その言葉に同意を示して頷いたのは無口書記の綾鷹隆盛。彼の場合は話すのが苦手だと穂南は解釈をしている。


「そんなこと言うならさぁふくかいちょーが案内役になればぁ?」

「別に構いませんが、その代わり私の仕事の手伝いをお願いしますね」


にこり、と笑えば渋々と返事をした香坂。そんな香坂を見ながら穂南が考えていたことはただ一つ。

(王道展開ktkr!でも、これは俺が転校生好きにならなきゃダメか…いや、別にいいよな。会長達は好きになるだろうし)

ただただ王道が目の前で起こるという事実にだけ期待の眼差しを向けていた。…自分が行かなければならないという展開を除いて。


「あれ、結局は雨宮先輩が出迎えることになったんすか?………はい、どうぞ」


給湯室から現れたのは庶務を務める爽やかな青年、草薙敦也である。彼だけが唯一の一年生であり、よく副会長である穂南を気遣ってくれる出来た後輩だ。
草薙は、紅茶だけではなくクッキーも添えて差し出した。そして書類を眺める穂南を見ては苦笑していた。


「約束の時間は11時過ぎ、校門前で出迎えろ。カードキーや寮に関することは全て理事長が手配済みだ。だからお前はソイツを理事長室に連れて行けばいい」

「わかりました。では、今日はもう仕事を終えているのでお茶をしたら帰りますね」


そうして優雅に紅茶を楽しんだ穂南は、これから起こるであろう喜劇に口先を上げたのだった。


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