俺は認めない


生徒会長と副会長の熱愛が発覚?!なんて学園新聞の見出しに大きく書かれていたのを知ったのは、穂南が藤堂にキスをされた翌日の朝だった。いやぁ、昇降口で屯されれば気付きもするはな、と穂南は青い顔をして生徒会室に向かったのは嫌な思い出だ。
あれから何人も穂南に尋ねてきて、その相手は生徒会や風紀、転校生の谷原まで様々だ。あまりにも多くの人に聞かれて疲労が溜まってしまった穂南は、放課後に真相を突き止めに来た谷原に思わず「王道転校生の素晴らしさはどれほどのものか」「どうでもいいから会長とくっつけよ」と腐男子どころか喧嘩腰で語りだしキャラが迷子になってしまった。


「雨宮先輩…疲れきってますね…」

「…草薙、君と綾鷹だけが私の救い…いや、癒しですよ」


あれから数日は経った。

穂南の素を知った谷原は引くどころか「穂南のためなら」と良き話し相手になってくれて、今ではなぜか穂南の親衛隊で鍛えられていると噂で聞いた。何でも「穂南に相応しい男になる」んだと。いやいや、だからって王道転校生だったはずなのに、あっという間に変装を解いて親衛隊に入るなんてどういうことなんだ。俺はそんなの認めないぞ。しかも見た目が王子様のような感じで穂南は同じ男として嫉妬した。


(…案外いい子だったね、谷原って。騒がしいからアンチ要因と思ってた俺を殴ってやりたいよ。そのまま会長とゴートゥベッドすればいいのに)


対してその会長である藤堂は、食堂でキス騒動を起こしてからというもの以前に増して穂南に用件を押し付けたり絡むことが増えた。それを警戒しながら穂南に絡んでくる香坂はというと、最近ではセフレとの噂を全く聞かなくなった。噂によると本命を振り向かせるために切ったらしいが。そして葉月はわざわざ生徒会室に乗り込んで嵐を巻き起こし、二宮に引き摺られる日々だ。


「雨宮、無理…ダメ」

「ええ、ありがとうございます」


ほわほわとした綾鷹に癒される。が、今はそれどころではなかった。実は体育祭の真っただ中なのである。七月という真夏のような暑さが日を追うごとに増してきている月になぜ、わざわざ太陽の下で動かなければいけないのか理解できない。
穂南は運動が嫌いだ。体育祭なんて滅べばいいと思うほど、太陽の下にも出たくなかった。しかし副会長が休むわけにもいかず、渋々出ているのだが。


「ふくかいちょー、ちゃんとみててね?」


甘い声で呼んできた香坂に、暑さからなのか呆れからなのか何なのかわからないが、くらりと眩暈がした。彼らはなぜか一位を取った人が穂南とデートができる、なんて本人が認めてもいない争いの真っ最中なのだ。発案はバ会長の藤堂である。全員どうでもいいのだがいろんな意味で気になって結局見てしまうのが現状である。


「あ?勝つのは俺に決まってんだろ」

「お前らが俺に勝つのはまだまだ早いんだよ」

「かいちょーにもいいんちょーにも負けないし」


結果、見事に勝利を納めたのは香坂で。それには周りも騒然としていた。
実は香坂が勝つことは考えに入れておらず(穂南は香坂マジごめん、と心の中で謝っておいた)藤堂か葉月だったら…と、逃げる方法だけを考えていた穂南には予想外な結果となった。


「ふくかいちょー、夏休みに俺と水族館デートしよ」


嬉しそうに笑う香坂に、恨むようにこちらを見つめる藤堂と葉月。その光景を心配そうに見つめる綾鷹と、困ったように笑う草薙。


王道が見たくて楽しみにしていたのに王道なんてどこにもなくて。ただ男同士の恋愛を見たくて入学して、自分へのフラグは立てないように気を付けていたのに気付けばこの状態。

こんなはずじゃなかったと穂南は項垂れた。


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