静かなBGMが流れる店内。いつぞやは騒がしく音楽をかけなくてもいいくらいに思えたのに、今ではそんな時を忘れてしまうほど穏やかである。そう店長である康孝は物思いに耽りながらグラスを磨く。
ここは昼間は短時間だが喫茶店を、夜はバーを経営していて知る人ぞ知る店である。そこに、穏やかな空間には不釣り合いな騒がしい足音とドアを開ける音が聞こえてきて、おや?と首を傾げた。


「康孝さん、」

「……っ!梓、どうしたんだ、その顔の怪我!」


店に現れたのは康孝の義弟である菅谷梓だった。梓は一見平凡な見た目だが、よく見ると綺麗な深く青い瞳に艶のある黒髪、口元のホクロに日焼けをしても染まることのない、しかし病的なそれではない真っ白な肌をしていて魅力に気付いた者は目を離せなくなるほどの儚い美しさも持っていた。
そんな梓の母親が康孝の父親と結婚をして兄弟になるとわかった日から、康孝は梓を溺愛していた。

だから梓の顔を傷付けた誰かを憎むあまり顔が険しくなり、持っていたグラスを握り潰しそうになる。それを真っ先に気付いた梓が、やんわりと手に触れてグラスから離させる。


「梓、何があった。学園で何かあったのか」

「康孝さん顔が怖いよ?まあ、うん…ちょっと…」


梓は下唇を噛んで苦い表情をしながら先程まであった出来事を思い出していた。それに気付いた康孝が唇に触れて噛むなと言ってくるのはいいが、そういうことは女にしろと苦笑してしまう。


「実はさ、学園に転校生がやってきたんだ…」


康孝が卒業し、梓が現在通うことになった学園は男子校で所謂金持ち校であった。ホモやバイが生徒の半数以上を占める学園に梓を通わせたくない康孝ではあったが、玉の輿状態であった梓に金持ちの息子たちと接して何かしら学んでほしい部分が父にはあるようで通わせることになった。

中学三年生から通い始め、美形だらけの息がつまりそうな生活にもようやく慣れて高校生となった。それまで同様地味で平凡な生徒を演じたかったが六月上旬、転校生がやってきたのだ。
もっさりアフロとも取れるボサボサな黒い髪、前髪と汚れが酷く年代を間違えているような分厚いレンズが嵌められた眼鏡で顔の三分の二を占めている。
そのあまりにも不気味な外見に騒がしい声、一言交わせば友達扱いに器物破損を繰り返す問題児をあろうことか生徒会や風紀委員長といったトップの人間、さらには人気の高い生徒を虜にしていた。


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