繋ぐもの
正反対の僕らを繋いでいたのは、長いようで短いイヤホンコードだった。
自分で言うのは気が引けるが俺はクラスでは中心的な存在で、どちらかというとバカだけど盛り上げ役だし人気もある。女の子からだって告白されたことあるし、友達だってたくさんいる。
そんな俺が、たった一人の男を前に緊張しているなんて誰が思うだろうか。
彼は俺の前の席で、いつも読書をしている。耳にはイヤホンをしていて周囲の雑音を遮断しているようで、黒い髪は顔を隠してしまっていて根暗だとかオタクだなんて周りから言われている彼。
そんな正反対の俺たちは普段会話をするわけでもなく、関わるとしたらプリントを回すときぐらいだった。
本当の彼は、根暗だとかオタクなんか言われようが関係なくかっこいいと思ったのは、つい最近。
俺が珍しくぼーっとしていて転びそうになったとき。
「―――、危ないっ!」
滅多に聞くことのなかった声は案外はっきりと聞こえて、とても優しい声だったのだと知った。
俺の腕は力強く引き寄せられて、白く細いと思っていた腕には筋肉がついていて男らしいのだと知った。
眼鏡越しに見た彼の目は少しつり目がちで、緋色だったのだと知った。
何も知らなかった彼のことを知る度に胸が高鳴った。もっと知りたい、仲良くなった俺は、数日後に毎日のように一人でいた彼を勇気を出して昼食に誘った。
「あ、あのっ!い、一緒にご飯食べない…?」
「……俺で、よければ」
それから気がつけば一緒にいる時間が増えて、周りからは奇妙な目で見られていたのに知らないうちに二人一組に見られるようになって。
彼と話すのも好きだが、彼の好きな曲を二人で一緒に聴く時間が一番好きだった。俺の音楽プレイヤーも、彼の音楽プレイヤーもお互いの好きな曲でいっぱいになっているのを見ると幸せを感じた。
そんな彼は髪を切ってみれば、というアドバイスを受けたらしく翌日にはさっぱりしていて。気がつけば女の子が群がるようになった。
照れたように笑う彼が嫌だった。かっこいい彼を知るのは自分だけでいいと、思った。
初めて、想いを自覚した。
自覚をすると止められなくて。八つ当たりのように怒鳴り彼を怒らせた俺は、今は一人で音楽を聴いている。イヤホンから流れるのは彼が好きだと言っていたもの。あんなに近かった二人の距離は、もう遠くて。
いつも肩越しに感じていた体温はない。イヤホンも片耳ずつ二人で分けることもなく。
「―――、」
はらり、はらりと瞳から滴がこぼれ落ちた。