気を失うように眠っていた冬真が目を覚ましたのは、すでに魔物とのことがあってから時間が経っていた。
開いている窓から入ってくる風に靡くカーテンに目を向けたときには、すでに夜空は暗く、星が輝いていた。
そして視界をさ迷わせると椅子に座ったまま眠っている秋人がいた。それを見た冬真は体を起こそうとするが途端に身体中に痛みが走り、小さな悲鳴を上げて再びベッドへと逆戻りしてしまった。
「……起きたか?冬真、無理すんなよ。しばらく寝てた方がいい」
気がついた秋人がそっと冬真の額に手のひらを置く。その温もりに安心するも、聞きたいことが山ほどある冬真は目線で訴えた。
「あのあと魔物は無事に浄化したから気絶したお前を抱えて学園に戻ったんだよ。ちゃんと報告したさ」
「………菅谷は?」
「知らね。あのまま俺もサボったし、雪城家に戻っただろうな」
どこまでも冷たく、棘を感じる声音に余程菅谷を嫌っているのかと苦笑いしてしまう。しかし、冬真は菅谷のことや魔物のことよりも気になることがたくさんあった。
「………なんで、」
「……ん?」
「なんで、俺を助けたの」
純粋に気になったことを聞いた冬真に、秋人の眉間に深く皺が刻まれていく。
「助けなくても大丈夫なのに、迷惑は掛けない」
「……お前はあのまま戦えたってか」
「…当たり前じゃん。だって、俺は…ッ?!」
グッと力強く握られた手首が布団に押し付けられる。冬真の体に跨がるよう被さった秋人に浮かぶ表情は、怒りと悲しみだった。
だけど、それでいいと冬真は思っている。彼が自分に向けるのは怒りだけでいいのだ、と。
「お前はあのまま戦ってたら体を壊してたんだぞ?!なのに、何が大丈夫だ?ぶっ倒れたくせによく言えるよな」
「例えそうだとしても、秋人には迷惑かけてない!助けなきゃよかったじゃん。お前は、俺を…憎んでるんだから」
珍しく声を荒立てた冬真に目を見開いて驚いた。しかし言葉を放った冬真本人も胸がぎゅうっと握りしめられるような思いをした。
「―――、そうかよ…」
「秋人?」
秋人は泣きそうなほど顔を歪めたかと思えば、次には冬真の首筋に顔を埋めるようにのしかかってくる。
「……なんで、だろうな。どうしてこうもダメなんだろうか…」
「…秋人、どうしたの、具合悪いの」
「お前は人の心配はするくせに、俺には心配させないとか…まあ、いい。なんでもない」
それよりも、だ。そう言った秋人の声には怒りにも似た感情が込もっているのを感じ取った冬真は無意識に背筋を伸ばした。
「アイツが冬家の次期当主ってどういうことだ」
それは冬真のが知りたいくらいだった。現在の当主の息子である冬真でさえ聞いていないというのに、菅谷は当たり前のような口調で言ったのだ。それに、
「次期当主は冬真、お前だろ…?」
そう、兄をも押し退けて次期当主として名前を挙げているのは冬真ただ一人だった。それは冬の一族では既に広まっている噂でもあり事実だった。
事実だと知っているのは四季家の本家の人間だけではあるが、誰もが冬真を推しているのだ。力の強さもであるが、彼の優しさを認めて。
だが、それは冬真一人だけ否定し続けていたが。
「……もし、本当ならそれもありなのかもしれない」
「…理由は?」
「…僕みたいな人間よりも明るい彼の方がいい。こんなやる気のない役立たずな、人を傷付けた人間が上に立つなんて…」
そう言うと再び秋人は冬真に対して怒鳴るも、それも次第に小さくなっていく。
「……帰るぞ」
完全に覇気をなくした秋人によって起こされた冬真は、その表情が見えないことに不安すら感じたが今は何も言わず導かれるまま歩み始めるのだった。