「お兄様。入りますよ!」




トントン、と軽いノック音を鳴らした後、私は扉を開けた。


部屋に入ると机に向かって黙々と書類に目を通す兄がいた。全く…朝から仕事のことばかりなのは兄らしいのだが、もう少し体をいたわるべきである。


兄の周りには沢山の書類。邪魔にならないように持ってきたコーヒーを置くと、ありがとうと一言だけ聞こえた。いえいえ、と言った後、私は一大決心をしたように叫んだ。



「お兄様!!ちょっとよろしいでしょうか?」


「すまない…忙しいから後にしてくれ」



普段なら仕方ないとおとなしく自室へ戻るのだが




今日は





「お兄様!!ご用件が…」


「仕事ならそこの書類の上に追加してくれ」


「そうじゃなくて…話をしたいのでお兄様ちょっとだけ仕事をやめて頂けませんか?」


「仕事じゃないなら後にしてくれ。今重要な書類に目を通してるんだ。ごめん。またあとでな」


「だから、あのっ」


「この話はおしまい。な?」


「お兄様!!お兄様!!」








「………お兄様?」






まさかの無言。私は兄の真後ろへ行って兄を呼んだ。







「お兄様!!」

「シェイドお兄様!!」

「にーさま!!」

「兄上!!」

「お兄ちゃん!!」

「エクリプス!!」

「師匠!!」

「シェイド様!!」

「プリンスシェイド!!」











「…………………」









「兄貴」


「いつから反抗期になった」


「良かったいつものお兄様で」



反射的にくるりと私の方へ振りかえる兄。

私が笑顔で見ていると兄が怪訝そうな顔をしていた。


「…………何だ。クッキーか?ほら」


「ありがたく頂きます。でも用件は違いますよ…ん、美味しい!」



クッキーをひとつ頬張った後、兄を真っ直ぐ見つめて言った



「お仕事をやるのは構いませんが今日は早く切り上げて下さいませ。私もお手伝いいたします」


「…無理するな、と言いたいのか?それなら適度に休息を取ってるから大丈夫だ」


きちんと休めとアイツに言われたからな、とお兄様は続けた。



「いえ、そうではなくて」


ミルキーはゆっくり息を吸い込むと、高らかに言った





「ファイン様」







ガタンと軽く机が揺れる。

知らない人から見たらわからないでしょうが、いつも冷静なお兄様がとまどっている様子を見て少し笑ってしまった。

お兄様が口を開こうとするのを私は遮って話を続けた。


「今日の午後からファイン様とお出かけするんです!!アフタヌーンティーでは月の国で一番オススメのスイーツ食べ放題のお店に行くんですよ!!夜はお城にお泊めしようと思っています!!」


「…招待状は」


「勿論出しました!レイン様はこれないそうですけれど…レイン様はきっと気を使っ「ミルキー、一体何が言いたいんだ?怒らないからちょっとオニーサマに言ってみなさい」

「あうういひゃいいひゃいいひゃいれすおにーひゃま!!」


気を使ってくれたのですね、と言おうとした矢先にお兄様から頬をつままれた。

しばらくして手の力が抜けた後、頬をさすりながら兄に向かって言った



「言いたいことは……お兄様、私がお邪魔かもしれませんけど

…一緒にお出かけしましょう。三人で。」





「………いきなりどうした」


「お兄様……いえ、にーさま、ミルキーはにーさまが大好きです。にーさまと同じくらいファイン様も大好きです」



「…大好きだからこそ、幸せになってもらいたいのです!!」



私は兄の机の書類を半分ほどをとり、ドアへと向かって歩いた


「最近ずうっと会えていなかったお二人が会うには絶好の機会ですから!!ね!」

どうみても両思いにしか見えないのにお兄様とファイン様はお付き合いしていらっしゃらないようで。
私はそんな大好きな二人の幸せを影なから応援していきたいなぁ…なんて思うわけですよ

お兄様には、この気持ちがわかりますか?



「…おせっかいだな」


「お兄様似です」



早く仕事を片付けちゃいましょう!と言ってドアに手を伸ばすと



「ケーキ」



「ん?」







「………後で買ってやるよ」




背を向けながら言う兄。
思わず目をぱちくりさせる。
意味を理解した後



「………ありがとうございます!お兄様!」





私は満面の笑みを浮かべ、自室へと走り出した









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