三月。桜の舞う季節は、別れの季節。私も、例外ではない。卒業証書を手にしたまま、私は桜の木の下に佇んでいた。暖かな日差しに心地よい風。ひらひらと舞う桜の花びらが綺麗で、夢の中にいるみたいだった。


「せーんぱい!」


突如後ろから抱き着かれる。あまりの衝撃に少し驚くけれど、何とか持ちこたえる。少し呆れたように溜め息を吐いて、抱き着いてきた後輩の名前を呼べば、彼はへへっと笑って私から離れた。


「卒業、おめでとっス!」

「…ん、ありがと」


彼の顔を見てそうお礼を言えば、彼は笑顔で私を見返す。頭の後ろで腕を組んで、屈託のない笑顔を見せた。…その笑顔が、嬉しくもあり、悲しくもあった。


「もう、アンタともこうして話せないのね」

「なんスか先輩、俺と会えなくなるのが寂しいんスかー?」


おちゃらけたように言う彼。彼は、学年も部活も何もかも違う私に随分となついてくれていた。時々怖いと噂を耳にすることもあったが、私からしたら可愛い、手のかかる後輩だった。そんな彼とも、もう会えなくなる。そう思えば、寂しくないわけがなかった。


「…先輩?」

「え…?…あ、」


気づくと、私の目からは涙がこぼれていた。…おかしいな、卒業式でも泣かなかったのに。今になって、急に、涙が出てくるなんて。自分でも信じられなくて呆然としていると、彼は私にそっと手をのばしてきて、優しく涙をぬぐった。


「…ねえ先輩。俺さ、いつでも先輩のとこ行くから。例え先輩が外部の高校に行ったとしても、絶対会いに行くから」

「………っ」

「俺はやっぱりテニス続けてえし、テニス部の先輩等もうちの高等部行ったからさ、高校はそのまま上がるつもりだけど。…でも、ずっと会えねえわけじゃないじゃん?」


彼はそう言って私の頭をそっと優しく撫でる。その手が優しくて、目から溢れ出る涙がいつまで経っても止まってくれない。彼と離れてしまう寂しさも勿論だけど、半分は嬉し涙だった。何も言えずにこくこくと頷けば、彼は笑って私をそっと抱き締めた。


「…好きっスよ、先輩。ずっと」


彼の腕に抱かれて、彼の胸元に顔を埋めて、声にならない声でありがとうと答える。そんな私達を、桜の木だけが見守っていた。


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久しぶりにクイズ形式です。わりと分かりやすいと思うので、今回はノーヒントです。
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