「いらっしゃいませ」

「ねぇ、ギン何にする?」

「んー、僕はええわ」

「そう?じゃ、あたしみたらしだんごで!」

「かしこまりました」



今日も来てる、あのお客様

流魂街では滅多に見ない真っ黒な着物
ここの甘味屋のおじさんに教えてもらって初めて知った
あの着物は死覇装といって死神だけが着れる着物だって
おまけのこの死神さんは白い羽織も着てる
護廷十三隊の隊長の方しか着れない白い羽織
とても地位が高い方だという事が容姿だけでわかる



死神

存在は知っていたけど、まさかお目にかかれる事があるなんて
私みたいな普通の平凡な魂が関わる事なんて一生ないと思ってたのに

今、同じ空間に居て、同じ時間を共有してる
同じ世界にいるのに遠い存在の方が目の前に居る

そう思うと自然と頬が緩んだ



ちょうど1ヶ月前、彼を初めて見たときから、
その独特の雰囲気や彼の存在全てに惹かれてしまった
所謂、一目惚れ
私にとって彼の存在は絶大だけど、死神さんにとったら私の存在なんて蟻同然なんじゃないだろうか
もしかしたら、蟻以下かも

だって彼は毎日別の女性を連れてくるから
毎回違う、でも皆共通して綺麗でスタイルのよい女性を連れて来店される
私は綺麗でもスタイルもよくないもの
彼の目にとまるなんて有り得ない


そうは思ってるけどやっぱりちょっと落ち込む
こう毎日違う綺麗な女性が彼の隣に居るのを見るのは辛い
もっと私が綺麗でスタイルがよかったら彼に近づけた?
考えてもしょうがない事だけど、どうしても考えてしまう


綺麗だったら
可愛かったら
スタイルがよかったら
人目を惹く程の魅力があったら

彼 に 近 づ け た ?



「みたらしだんご、お待たせしました」

「どーも」

「それではごゆっくりどうぞ」



....はぁっ....
注文の品を持っていくのだけで凄く緊張した
胸がドキドキしすぎて破裂しそうになるくらい


彼を知りたい、彼と話してみたい


想いは日が経つごとに大きくなる



「***ちゃん!これあそこのお客様に持っていって!!」

「は、はい!」



いけない、今は仕事中だったんだ
ダメだ、彼がいると集中できない

ん!

頬を叩いて気合いを入れなおした



「お待たせしました、わらびもちです」

「は?」

「?...どうかなさいましたか?」

「んなもん頼んでねぇんだけど」

「えっ...」

「え、じゃねぇよ!オレが頼んだもんはただの茶だっつの!」

「も、申し訳ございません!!」

「謝って許されると思ってんのかよ!謝んなら間違えんなや!!」



こ、こわい...
謝ったじゃない!なんで?!

掴まれてる右腕が痛い



「ほっ本当に申し訳ございませんっ...
すぐに替えの物を持って参りますので...!」



痛い、痛い、痛い

皆怖がって助けてくれない
巻き込まれないように遠巻きに私達を見てるだけ
お客様もお店の人も

どうしよう....
涙、でそ、う....



「い、痛....」


「ほい、ストップ」


「?!」



急に私とお客様の間に壁ができた
目の前には三とかかれた白い羽織


えっ....


顔を上げると、そこには銀髪
目を奪われてしまう程綺麗な、あの



「君ちぃと怒り過ぎとちゃう?
この子謝っとるんやし許したりーや」

「あ゛?!てめーには関係ねぇだろうが!」

「関係ない....ね...」



その言葉と同時に一気に空気が冷たくなった
助けてくれた死神さんの顔は見えないけど...
なぜかとても冷たい顔をしてる気がする
見えないけど、わかる
怒っていたお客様の様子も激変して怯えてるよう



「確かに僕は関係ないなぁ...」

「だっだったら首突っ込んでくんなやっ...」

「でもなぁ...折角ゆっくりしとったんにこないワーワーされたら首突っ込みとぉなるやんか...
とりあえず...手ぇ離したり...?」



さっきより更に冷たくなった空気
私の腕を掴んでいたお客様の手がずるっと離れていった



「ん、やっと離したなぁ...あかんで?女の子には優しくせな」

「う...あ...」

「わかったらはよ行き
そうせな...殺すで?」



お客様は真っ青になり、慌てて店を出て行った

た...助かった...

離された腕を見てみると少し赤くなってて痛い
助けてくれた死神さんは屈み私と同じ目線になって頭を撫でてくれた



「大丈夫?」

「え、う、あ、はい!」

「ごめんなぁ、遠くにおったもんやからすぐに助けに来れんかったんよ...怖かったやろ」

「いえ、大丈夫です!助けて下さりありがとうございました!」

「大丈夫ゆうても...君...泣いとるやん」

「え?」



言われて気付いた

私、泣いてる

あれ?おかしいなぁ....
安心して涙腺が壊れたんだ
拭っても拭っても溢れてくる



「怖かったし痛かったもんなぁ...腕、見してみぃ?」

「うぇっ...は、はい...」

「ひゃあ、赤うなっとるやん
相当強い力で掴まれとったんやね」

「....ひっく....」

「これ、はよ治るようにおまじないや」

「?」



同じ高さにあった死神さんの顔が不意に消え、
腕にはなにか柔らかい感触
一瞬何をされたのかわからなかった
数秒後、私の顔は真っ赤に



「あ....の...?///」

「ほな、これからは気いつけるんよ?***ちゃん」



....えっ...?///




腕に残った感触 耳に響いた名前




次の日から死神さんは1人で来店されるようになりました。
名前は市丸ギンさんというそうです。
少しずつ会話が弾むようになってこの前なんか休みの日に一緒に出かけてしまいました。
不謹慎ながら、こうして市丸さんと近づけるきっかけとなったあのお客様には感謝してます。




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マヤ様へ written by 月






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