朝起きて、窓を開け新鮮な空気を胸一杯に吸い込む。真新しい1日が始まった。
でも、真新しくない事が1つ。
「エド先輩、今日も相変わらずかな?」
***は、う〜ん、と伸びをして支度を始めた。
「おはよ。」
「おはよう。」
昇降口で会った友達と、今日も寒いね、なんて言いながら教室へ向かった。授業を受けるが頭に入らない。チラッ、と窓に目を向ければ見慣れすぎた姿が目に入った。
「あ、エド先輩だ!」
「またエド先輩の事?」
心の中で呟いたつもりだったのだが、どうやら口に出てしまっていたらしい。
「うんっ!」
「好きだね〜。今日も行くの?」
「もちろん!」
放課を告げるチャイムが鳴る。それを聞き、急いで外に出た。
「あ、居たっ!」
目の前を歩くエドを見つけ、走って近付いた。
「エド先輩〜っ!」
そのまま抱きつこうとしたら、避けられてしまい転びそうになったがエドに腕を掴まれ地面との衝突は間逃れた。
「ったくお前はー!後ろから抱きつくな!」
「なら前からなら良いの?」
「そういう問題じゃねぇ!」
***は2個上のエドに恋していた。毎日想いをぶつけるのだが、結果はご覧の通り。
「こりねー奴。」
「だってエド先輩見ると、気持ち抑えらんないっ!」
「はいはい、お前皆にそういう事言ってそう。」
その言葉がやけにショックで何も言えなくなってしまった。
「気を付けて帰れよ。」
それだけ言い残し、次第にエドの背中は小さくなり、見えなくなった。
「うん、ショック。」
何とも言えない感情が渦巻き、寝る直前までずっと考えていた。
「きっとエド先輩はあたしの事、軽い女だと思っているんだ。」
真新しい朝がきた。いつも空気を吸い込む事を日課にしていたが、そんな気分にはなれなかった。
授業を受ける、頬杖をつきながら。
「散りぬべきとき知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ、という唄がある。先生はこの唄は人間引き際、散り際が大事なんだと謳っている唄なんだと勝手に解釈しているぞ。」
―引き際、散り際…あたし解ってる?
解ってないよね。あの時、エド先輩はどんな顔してた?眉間に皺寄せて困った顔してた。あたし…困らせてた。
途端に今までしてきた事全てが恥ずかしくなり後悔した。
「もう、やめよう。」
廊下でいつも探していた姿を見つけても気付かないフリをした。自分の中からエドの存在を消そうとしていた。
そんなこんなで1週間が経った。
「***、最近エド先輩に絡みに行かないね。」
友達に言われ、うん、と答えた。
「迷惑なんだって気付いたの。」
「ふ〜ん。それで良いの?」
「え?」
「いつか後悔しない?もっと気持ちぶつけていれば良かったって。好きな人に気持ちをぶつける事出来るって幸せだよね。良いんじゃない?我侭になって。***の場合、本能に任せるのが吉なんじゃない?」
「…うんっ!ありがとう!」
「行ってらっしゃい。」
「ちゃんと慰めてね。」
「はいはい。」
1週間振りにエドの姿を探した。
「あ、いた。」
駆け寄り。ハァハァと乱れる荒い呼吸を整えようと鼻からゆっくり空気を吸い込んだ。
「あのねっ、エド先輩!大好き!…でも安心して?今日で最後!あたしも引き際散り際心得た!今迄困らせてごめんなさい。もう、解放してあげるね?」
震える手を、ぎゅっと握ってへへへ、と笑うと教室へ戻る廊下を歩いた。
「はぁ、本当勝手だな。」
その言葉を背中で聞いて、心臓が痛いのは気のせい、と自分の気持ちに鈍感になった。
「本当に今日で最後なのか?」
振り向かずに頷いた。
「俺がお前を好きだ、って言っても?」
頭がついていかない。エド先輩があたしを?
「絶対、嘘。そんな嘘つかないでよ。」
「嘘じゃねーっつの。」
「ほんとにほんと?」
「あぁ、***がアタックしてきてる時は正直煩わしかった。でも何もない1週間、何だか物足りなかった。…でお前が好きだって気付いた。」
頭をクシャクシャと撫でてくるエドの手を払った。
「子供として好きなの?」
「かもな。」
2度目のどん底。***は上目遣いでエドを見て、エドの頬にそっと手を添えた。
「あたしだって、もう子供じゃないもんっ。」
「ふ〜ん。生意気に俺を誘うの?良いぜ。」
エドは***の首に両腕を回し、額をコツンとくっつけた。
「ちっ…近いっ。」
「大人って言うなら今から俺ん家来る?それともここで…、」
低い声で言われ、***は顔を真っ赤にし、硬直した。クツクツと笑うエドも心なしか少し、顔が赤かった。
「お前、すっげー積極的なのに免疫ねーのなっ。俺を煽るのは免疫ついてからにしよーね。」
わざと、子供を諭すような言い方をするエドを睨んだ。
「エド先輩、意地悪だ。」
「好きな子苛めるって定番じゃね?」
その言葉に唸った。
「別に恥ずかしくないもん。」
「へー。」
エドは***の顎を掴み、唇を近付けた。
「ちょ、ちょ…、」
ちょっと待って、という前にエドの唇は***の右頬に落ちた。
「…あれ?」
「お前にはまだこれで十分だろ。俺の理性はいつまで保てるか!」
天井を仰ぐ、エドの両頬を掴み、エドの唇に自分の唇をくっつけた。
チュッ、というリップ音が響き、直ぐに離れた。
「子供じゃないもんっ!」
涙目になりながら自分を見つめる***に、エドは顔を背けた。
「あー、もう、お前、俺をどうしたいの?可愛すぎだろ。」
ぐしゃぐしゃと自分の頭をかき、エドは背を向けた。
「お前、明日から覚悟しておけ。」
「へ?」
エドはそう言い残し、帰って行った。
***は教室へ戻った。
「どうだった?」
友達に尋ねられ首をかしげた。
「先輩もあたしが好きで…チューした。」
「展開はやっ!で、付き合ったんだ?」
「わかんない。…あっ、先生!」
校舎の見回りに来た先生に声をかけた。
「先生。さっきの唄のおかげであたし大人になれた!ありがとー!」
「おー、早く帰れよ。」
「さよなら!」
友達にもお礼を言って帰宅した。
次の日登校すると、背中にドン、という衝撃が。
「おーっす、***!」
首だけ後ろを向けば、エドのドアップ。
「なっ、」
「何か、こうしたくなった。」
「みみみみみ皆見てる!」
「ちょっと前まではお前がこんな感じだったんだぜ?」
「…エド先輩とあたしの関係って何?」
「は、恋人?」
頭がクラクラする。
「え、ちげーの?」
何も言えない***にエドは笑った。
「これから、改めてよろしくな。***!」
そう言って首筋にキスしてくるエドから逃げた。
本日快晴、真新しい1日
ただ1つ変わらなかった事が
今日から変わり、昨日までは***が
エドを追いかけていたのに、今ではエドが追かけているとか。
スパーク・ロマンティカ
(ちょっ。公衆の面前!)
(お前が言うな!)