おそ松さん | ナノ

いわくつきカノジョ
※双子夢主(妹メイン)

 お姉ちゃんって、どんな口調だったっけ。
 とりあえず、疑われるのは嫌だし私も楽しみたいから頑張ろうかな、と心に決めてカラ松さんの到着を待つ。

「……待たせたな、カラ松Girl」
「? あ!」

 ふと現れたのは、たぶんお姉ちゃんの彼氏であるカラ松さん。「ごめん、イタイ格好しててもスルーして」と言われたけど、痛い要素なんかなかった。一松も持っているスーツをきて、サングラスをかけている。……発言は、イタイのかもしれないけど。

「遅くなって悪いな」
「ううん、待ってないよ」
「そうか。……じゃあ、行くか」
「うん」

 思っていたよりも一松に似ていて、私はドキドキしていた。
 悪いことをしている自覚はある。でも、このスリルが私は結構嫌いじゃないみたい。

「ね、手繋いでいい?」
「あ、ああ。……随分積極的だな」
「……そ、そう?」

 しまった。私から行くのはアウトだったか。うん、ごめん。でも繋ぎたかったから仕方がないじゃん!
 思っていたよりも強く握られて、お姉ちゃんの彼氏なのになんだか無駄に照れてしまった。

「寒くないか?愛しのハニー」
「へ!?」
「?寒いのか?」
「う、ううん!大丈夫だよ!」

 お姉ちゃんってハニーって呼ばれてるの!?なんて一瞬びっくりしたけどそういえば「発言もイタイから。スルーしていいよ。行き過ぎたらとことん無視」って言ってた。これも痛い発言なんだ。というか反応しちゃった、ごめんね。

「今日は雰囲気が違うな」
「え?そう?」
「ああ、表現しづらいが……」
「気のせいでしょ」

 素っ気なく反応してみると、「そうだな」と弱めな言葉がかえってきたので様子を窺ってみればキリっとしたまゆげは八の字になっていて子犬みたいになっていた。

「(さっきの格好よさは演技なのかな。でも子犬みたいな姿、一松じゃ絶対見れないしかわいい……)」

「ね、そんな落ち込まないで。今日のためにお洒落してきたの」
「……梓音」

 ああ、よかった。お姉ちゃんだと思ってくれてる。

「素敵なランチをごちそうするよ」
「本当?」
「ああ」
「ありがとう、嬉しい」
「そ、そうか……」

 さすが俺の天使(エンジェル)、喜んでくれると思っていたよ。そう言われたけどそこはまあ無視だよね。いいなあ、お姉ちゃん。こんなに感情表現してくれる人で。

「パスタがおいしい店なんだ」
「そうなんだ!楽しみ!」
「お前の好きなクリームパスタが多いらしくてな」

 ああ、確かに。お姉ちゃんに選ばせるとクリームパスタが多くなるなあ。当たり前だけど、好きな人の好きなものをきちんと覚えててくれるってすごい嬉しいことなんだな。

「カラ松は何食べるの?」
「俺か?俺は……そうだな、トマトクリームのものが食べたい」
「おいしいよね。私は何にしようかな」
「好きなのを食べるといいさ」

 ピロン。ふいに私の携帯にLINEが届く。こっそりと覗いてみるとお姉ちゃんからだった。そういえば、私最初に既にやらかしてたな。

『カラ松さんっていい人だね!って、そうじゃなくてお姉ちゃん情報少なすぎ!テンパっちゃったよ〜!』
姉:ごめんごめん!あのさ、××っていうカフェに来てるんだけど何食べたい?
『え!そのカフェ行ったの?いいな〜!あのね、私ここの超有名なパフェ食べたいの!お願いね!』

 羨ましいな、あそこのカフェ連れていってもらえたんだ。でも、そうだよね。一松はきっと私のことを喜ばせたかったんだよね。

「どうした?」
「ううん、なんでもない」

 楽しみだね、なんて笑えば彼はほんのりと顔を赤くして。……ああ、本当にかわいいな、なんて思ってしまった。



「!……めちゃおいしい!」
「だ、だろ!」

 連れて行ってもらったのはパスタで有名なお店だった。メニュー選びに苦戦はせず、運ばれてきたパスタはめちゃめちゃおいしくて。

「あ、カラ松のもおいしそう!」
「食べるか?」
「うん!私のもたべなよ」
「えっ」
「えっ?」

 ほら、とフォークにパスタを絡めて差し出す。いたずらっ子っぽく「あーん?」なんて言えば途端に顔を赤くして、「あ、あーん」て食べてくれたけど。

「お、おいしいな」
「でしょ!カラ松さんのもおいしいね!」
「え」
「……?」

 油断していたせいか、まさかボロを出してしまうなんて。ああ、どうしようかな、なんて思っているとピロンと通知が来た。

姉:ごめん!一松くんにバレちゃった!
『私も。……どうしよっか?』
姉:どこかで落ち合おう
『了解』

「ご、めんなさーい!」

 自分の分のお金をテーブルに置いて、全速力で走り出す。ああ、たのしかったな。また機会があればな、なんて。

「お姉ちゃんとの待ち合わせ、どこだったっけ」

 LINEで確認すれば、もう、すぐそこだった。街灯の下に立つ影はきっとお姉ちゃんだろう。

「お姉ちゃん!」
「あ、ど、どうしよう!」
「え?」
「一松くん、カラ松に連絡してて……」
「ウソでしょ!?」
「ほ、本当……どうしよ」
「逃げるしかないでしょ!」


 どちらからともなく走り出す。……なんとなくだけど、逃げ切れない予感がした。



「で、これどういうこと」
「詳しく教えてくれよ、梓音」

 そしてその予感は的中することになる。妹は私の後ろに隠れてちょっと震えている。まあ、怖いかもしれない。

「えーっと、ですね」

 ちょっとした好奇心だったんです。と素直に白状する。「はーー」と長い溜息をつかれた後、しょうがないなとカラ松。一回きりにしてよね、と一松くん。

「……ごめんね?」

 ちょっとあざとかったかな。あざといのを承知で謝ってみれば見事にカラ松は顔を真っ赤にした。ん?でも今妹の姿なんだけどな。

「妹のこと、いいなとか思ったでしょ!?」
「お、おもってない!!」

『一松は?』
『は?』
『お姉ちゃん、いいなって思った?』
『ん。まあ、演技上手いとは思った。でもお前がいい』
『……ずるいなあ』

いわくつきカノジョ
(入れ替わったとて、愛が変わることはない)

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