ほんとのこころが知りたいな 『これ飲ませるの?まじで?』
『そのためにデカパン博士に頼んだんだろチョロ松!』
『犯罪だけど!?!?』
『でもチョロ松兄さんも、梓音ちゃんの本音、知りたいでしょ?』
『ぐっ、それは……』
『それに犯罪とか、今更』
『一松は諦めが早い!』
『起きるの楽しみだねー』
『なんでもう飲ませてんだ十四松!』
*
チュンチュンと、眩しい朝日が差すと同時に目が覚める。口の中がやけに甘ったるく、思わず顔をしかめた。のそりとベッドから降りるとコップを手にとって水道から水を汲み、ぐいっと流し込んだ。しかし甘さは消えずむしろ増す一方なので、仕方なくコップは水道横へ置いて、潔く諦めることにした。
今日は休日。まるっと休みなのでどこかへでかけようかとクローゼットへ手をかけて、ふと違和感を感じる。
「(なんでさっきから一言も喋ってないの……?)」
寝起きはテンプレートに「ふあぁ……」と言うはずなのに言った記憶がない。それに鼻歌も、いつも口ずさんでしまうのにまったくない。
「(あ、あれ……、喋れない?)」
試しに、と鼻歌を口ずさんでみようとしたができない。なぜだ。なんでだ。と焦っているとピンポーンとチャイムが鳴った。
「おーい、梓音ちゃーん」
「遊びにきたよー」
聞き慣れた、知り合いの声がする。緊急事態なので助けてほしいとお願いするために私は玄関へ向かい慌ててドアノブを回した。
「やあ、昨日ぶり!」
「お邪魔していーい?」
「いらっしゃい!」
すとんと、言葉が零れた。しかしそのあと、どれだけ試そうと喋れないままで、困惑したままでいると中から声がかかった。
「どしたの?早くおいでよ」
「あ、うん!今行くよ!」
そしてまた、すんなりと声がでた。
*
「……声が上手く出せない?」
「そうなの。自発的には難しくて」
「でも喋れてるよね?」
「今は、ね。さっきは全く喋れなくて」
真剣になって話を聞いてくれる6人たち。なんだか申し訳なくなって、がたりと席を立った。
『やったぜ!上手く行ってる!』
『これ、解除する方法、ちゃんとあるよね?』
『あるよお!この飴を舐めるか、数時間経ったら自然と効果がなくなるー!』
『……で、どうやって聞くつもり』
『フッ。プランなら俺g』
『かくかくしかじかって感じで』
『おけー!』
『……俺の、プランh』
ごめんね、と思いつつ7つのコップにオレンジジュースを注ぐ。お菓子はなにかあったっけ、と振り向いた瞬間。
「わぁあ!おそ松が暴れてるう!」
「!?」
チョロ松くんが、そう叫んでいるのを聞いて私は急いでリビングへ向かう。ドアノブを捻って開けた途端。
「梓音ちゃん、俺たちの中で好きなのは誰っ!?」
6人が私に向かって跪き、手を差し出していた。……え、なにこの状況?いまいちよくわからなi……
「十四松くんが……」
ぽろりと、口から零れた。
「「「「「「え」」」」」」
「!!」
ぱっと手で口を押さえる。誰も何も言わない沈黙を、最初に破ったのは十四松くんだった。
「梓音ちゃん、手ぇ出して」
「?」
「これ、今舐めて」
十四松くんから差し出された飴を口に含む。柑橘系の爽やかな甘さで、さきほどまでずっと残っていた甘ったるさもどこかへ消えてしまったようだ。
「もう、喋れると思うよ!!」
「え、あ、ほんとだ」
「梓音ちゃんが……よりによって……十四松……?」
にこにこと嬉しそうな十四松くんをよそに、他のみんなは床でのの字を書いている。そういえば、私さっき十四松くんが好きだっていっちゃったんだ!!
「あっ、あの、さっきのは、そのっ」
「あ!そう!あのね、まずごめんね!」
「え?」
「ぼくたち、梓音ちゃんの本当の気持ちが知りたくて小細工しちゃった!」
「えっ、え……?」
*
要するに、こうだ。
私が誰を好きか、というよりは遠回しにそれとなく知りたかったため、デカパン博士に頼んで「飲んだ相手は誰かが質問すること以外で喋れなくなり、しかも質問に対する答えは本音のみ(会話も可能)」という不思議な飴を作ってもらったそうだ。そして私が寝ているときに口に飴を放り込んだ、と。
「まって!?最後って不法侵入だよね!?」
「〜♪」
そう言った瞬間、誰からともなく明後日の方向を向いて口笛を吹きだした。
……まあもう、感覚が麻痺しだしているからなにも突っ込むことはできないけれど。ひとつ感じたことがあった。
「あ、の……なんでみんな私の好きな人が知りたい、の?」
だって、なんだか、好きな人が知りたい、なんてそんなのみんなが私のこを……
「好きだからだよ」
好きみたいじゃない。なんて。
「……え、」
「俺たちみんな、梓音ちゃんが好きだよ。まあ、きみは十四松らしいけど」
「っっ……」
くらくら、ちかちか、ふわふわ。わけのわからない感情が私を支配していく。
どうして、急にこんなことになったのだろう。
「いこう!」
「っ、ふぇ!?」
ぐいっと手を引かれ、駆け出す。視線をやるといつにも増して嬉しそうな十四松くんの姿があった。
「今日だけは、誰にも邪魔されたくない!」
「っ、う、ん……!」
ほんとのこころが知りたいな
(本当にぼくでいいの?)
(十四松くんが好きだよ。)
(ぜんぶ、すきだよ)