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白黒遊戯
「……こんばんは、怪盗キッド」
「どうもこんばんは、怪盗シエル」

 目の前には、純白なスーツを身に纏ったキザな怪盗。一方彼の前には漆黒のドレスを身に纏うゴシックな怪盗。……闇夜に紛れるとは言え、スポットライトを当てられればもちろんバレる。

『ご覧ください!月下の奇術師と呼ばれる怪盗キッドと、星夜の奇術師と呼ばれる怪盗シエル!まさに白と黒!こんな場面滅多にお目にかかれません!』

「……相当人気なんですね、怪盗キッドさん」
「それは貴女もでしょう、怪盗シエルさん」

 先程からオウム返しばかりしてくるのは、わざとなのだろうか。きっと、こちらを馬鹿にしているに違いない。ほんとキザな怪盗だなぁ。

「ねぇ、怪盗さん?」
「なんでしょう、怪盗さん」
「……私を、馬鹿にしてるんですか?」
「え?いえ、してませんが気に障りましたか?」
「いいえ。でも、あんまりオウム返しは好きじゃないです」
「それはそれは、申し訳ありません」

『何を話しているんでしょうか!いがみあってるようには見えませんが、内心火花を散らしているんでしょうかー!?』

「……うるさいなぁ、あのレポーター」
「少々耳障り、ですね」
「別にライバル意識なんかしてないのになぁ」
「おや、それは聞き捨てなりませんね」
「え……」

 少し思案すると同時に、手が差し出される。わけがわからず戸惑っていると小声で手を出してもらえますか、と囁かれる。おずおずと手を差し出すと。

『おおっと!?白と黒の怪盗が手を握っております!まさか、これはまさかの、でしょうか!?恋が芽生えた――…!?』

 レポーターがそう言うと、黄色い声で悲鳴が聞こえ、「キッド様−!」とか「シエルたんうそー!」とか聞こえる。……いや、嘘ってなにが?

「ワン、ツー……はいっ」
「わっ!?」

 ポンっと小さな煙が出たと同時に、手には真っ赤な薔薇を握っている形になった。……本当に、この怪盗ってキザだよね。

「……キザですね。でも、ありがとう」
「!……お気に召して頂けましたか?」
「うーん。まぁ、そうかも」

 そう告げると、白の怪盗はくすりと微笑み。

「レディースアンドジェントルマン。今宵の宴はここまでにて。それではまた月が映える夜にお逢い致しましょう」

 閃光弾を空中に投げ、爆発させる。目が眩んだままなにもできずにいると、ぐいっと腰を引かれ彼のハングライダーと共に飛び立つこととなった。

『……!?あれは、怪盗キッドが怪盗シエルを抱えて飛んでいます!どういうことでしょう――――……』

 周りの喧噪がだんだんと遠退いて、静かになったと同時に怪盗キッドが言葉を続ける。

「今宵は私に攫われてみませんか?」
「は……?」
「いえ、語弊がありますね。今宵は私が貴女を攫います」
「……なんですか、それ。決定事項なんですか?」
「ええ、もちろん。”否”など聞き入れません」
「…………勝手な人」

 でも、嫌じゃない。どうして、なのだろう。……密かに高鳴る胸に気付かないフリをして。彼の誘惑に乗っかってみるの。

白黒遊戯
(胸、ドキドキしてませんか?)
(気のせいですよ。閃光弾のせいかも。)

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