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オレンジ色の夢物語
 からんころん、と氷の入ったオレンジジュースが音を立てる。
 ずずと吸えばストローを通してオレンジが上へのぼっていく、と同時に口に広がる爽やかな酸味。

「お前、飽きねえの?」
「……エースさん?うん、飽きないよ」

 見かけるたびそれ飲んでんな。って、彼は隣へ腰かける。海賊のくせにこういうことには聡くてずるい。
 いつものように私にオレンジジュースを渡してくるくせに、そんなこと言ってくるなんて。

「いつまでここに?」
「さァな。追ってるやつの足取りが掴め次第だろうな」
「もう2週間も経つのに?」
「そういうときもあるさ」

 ふぅん。と。
 空になったオレンジジュースのコップを見つめる。彼とのこの時間は、居心地が良くて、どこか、苦しい。

「そういうお前もなんで毎日ここにきてるんだ?」
「なんでだろうね」
「はぁ?ばかなのか?」
「ばかっていわないで」

 そんなの、答えはひとつに決まっているのに。

「ばかは、そっちでしょ」

 そう告げればわかりやすく噛みついてくる彼。どうしてこんなばかなのに好きになんて、なってしまったんだろう。

「なァ、ナマエ」
「え、はい?」
「お前の夢ってなんだ?」
「……?なあに、急に」

 夢、なんて。唐突にそんなことを聞いてくるから、私は言葉に詰まった。だって、私の夢は……

「考えたこと、なかったな」
「……そうか」

 テンガロンハットを深くかぶり直した彼をちらりと見やり、そっと席を立った。また明日と心の中で囁き未だにハットから手を離さない彼に背を向けて、お店を出た。



「ほんとに、鈍いんだから」

 口に広がるペパーミントの味は、先程のことを掻き消すようで、好きなはずなのに少し憎たらしい。
 正直、私はあまり柑橘系は好きではない。もちろんエースくんは知らないだろうプロフィールだ。どちらかといえばミントなどのメントール系が好きだ。

「夢、かぁ」

 ウォールシェルフからエターナルポースを取る。近くの海岸で拾ったものだ。私にはこれがどこを指しているのかなんてわからない。けれど、いつかここに行きたい。それが私の夢だ。

「ここは、どこなんだろう……」

 エースくんに頼んでみようかな、ダメで元々。うん、今度会ったら私の夢を話すついでにお願いしてみよう。



 今日も今日とて目の前には爽やかなオレンジ色が広がっている。喉通るオレンジは甘味と、ほのかな酸味が程よいバランスになっている。

「よ。元気か?昨日ぶりだな」
「あはは、元気だよ。オレンジジュースいつもありがとう」
「っ、なんでそれ知って……!?」
「えっ、知らないと思ってたの……?」
「なんだよバレてんのか……」

 そばかすのある綺麗な顔がほんのりと赤くなっている。なんだか、とても新鮮だ。

「昨日、私に夢を聞いてきたよね」
「? ああ」
「私ね、海に出たいなあ」
「っ、はァ!?」

 大袈裟に立ち上がるエースくんを眺めつつ、エターナルポースを取り出す。それに気付いたエースくんは神妙な面持ちで席についた。

「これね、ずっと前に海岸で拾ったの。何の知識もない私だけど、冒険っていうのをしてみたい」
「…………」
「エースさんは、連れて行ってくれないの?」
「…………」
「……?どうしたの?」

 ああ、くそっ。と。
 帽子を取り、前髪をくしゃくしゃっと掻く。今度は若干青ざめている。表情がころころ変わって見ていて飽きない人だ。

「おれァ、ある奴を追っている」
「うん、知ってるよ」

 彼がこの街にいるのも、その追っている人の情報を得るためのはず。

「……今は、連れて行ってやれねェ。けど、必ずそいつを捕らえて、ナマエの元にくる」

 だから、それまで待っていてくれ。
 そうエースくんは告げた。気がつけば私は涙を流していて、エースくんは大袈裟に慌てていた。

「うん、うん……!必ず、必ずだよ……!いつまでも、待つから……、絶対、迎えにきて……!」

オレンジ色の夢物語
(そのときあなたに愛を伝える)

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