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私だけに頂戴
「出航だァアアァァア!!」

 我らが船長、麦わらのルフィが高らかに叫ぶ。それに続いて船員である私たちが続く。ニカッと笑顔を浮かべる船長に、きゅっと胸が甘く痛む。

「……私だけを、見ればいいのに」

 仲間には、ナミちゃんやロビンさんといった美女がいる。それに加えて海賊女帝のハンコックさんにも靡かない彼だ、私なんて彼の眼中にさえ入れないだろう。

「私だけに、笑いかけてくれたらどれだけ、幸せなことだろう」

 ありえるはずもないことを欲しがるのが人間、というもので。日に日に欲は増していくばかり。

「うー……私のばか……」
「どうしたんだ?ナマエちゃん」
「あ、サンジくん……」
「ランチを作ったんだ、食べようぜ?」
「うん!」

 おいしいものはおいしく食べたい。とりあえず今は、サンジくんの料理を食べよう!

「おー!ナマエ、きたな!一緒に飯食おうぜ!」
「……うん」

 やっぱり、この笑顔が好きだ。でも見ているだけで苦しくなってくる。せっかくの料理だって喉を通らないし、味もしない。ああ、もったいない。

「……大丈夫?ナマエ」
「大丈夫だよ、ロビンさん」

 仲間に心配をかけてしまっては意味がない。味のしない料理を精一杯体へ詰め込んで、足早にキッチンを去った。


「あーあ……」

 部屋でぼーっと本を眺める。羅列された文字をただ脳に押し込めるだけで、内容なんて入ってくるわけがないけど。

「おー、ナマエー!入るぞー!」
「っ、る、ふぃ……!?」

 唐突に、ノックもせず不躾に部屋へ入ってきたルフィ。女性の部屋に入るときはノックをしてとナミちゃんに散々言われているのに学習していないみたいだ。
 ……どうして、胸がこんなにうるさいんだろう。

「どうした?なんで元気ないんだ?」
「っ、そんなことないよ!」

 きりりと、甘く痛む。「これは仲間への平等さだ」と、頭では理解しているのに理性が納得してくれない。

「腹減ってんのか?」
「ルフィじゃないんだから……」

「どっか怪我したとかか!?」
「ぴんぴんしてます」

 全部、きみのせいだよ、と言えればいいのに。ああ、言って困らせてみてもいいかもしれない。

「じゃあなんで……」
「ルフィのせいだよ」
「え、おれの?」
「そう、ルフィのせい」
「ど、どうすればいいんだ!?」

 慌てふためくルフィを、もっと困らせてみたくて。

「じゃあ、キスして」

 本当は、笑ってくれるだけでいい。今だけ、私に笑いかけてくれるだけで嬉しい。そう考えていると。
 ふにっ。
 唇に柔らかく、暖かいものが触れる。目の前にはルフィの顔。……思考が停止した。

「…………」
「ナマエ?」
「っ、え!?」

 ルフィに声をかけられ、我に返った。
 ……本当に今、キスをした?あのルフィが?なんで?

「なっ、なんでキッ……!」
「なんでってお前、しろっていったのお前だろ!?」
「ち、が!なんで本当にしちゃうの!?ばかなの……!?」
「ばかじゃねェ!……おれは、ちゃんと考えた!」
「結局してるんだからばかじゃない!」
「してもいいって思ったからしたんだ!」
「なんで!?」

 意味わかんない、と言おうと口を開いた。それは見事に出せず終いだ。……また、キスをされたから。
 離れたかと思うと同時に抱き寄せられる。……私は今、ルフィの腕の中だ。

「……おれは、お前が大切だ」
「え」
「落ち込んでたら慰めてやりてェし、泣いてたら抱き締めたい。喜んでたらおれも嬉しい」
「なっ……、ほんとに……」

 ストレートに告白をしてることに気付いているのだろうか。いや、気付いてないな、これは。

「おれはお前が好きだ」
「っ、わ、たしも……!」

 同じ気持ちだと告げれば、彼は「ししし」と笑った。いつも見せる無邪気な笑顔ではなく、一人の男が見せる笑顔だ。

「私もっ、大好き……!」

 ねえ、ルフィ。
 もう、みんなに見せる笑顔に、やきもちは妬かない。だけど、あの笑顔だけは、他の人に見せないで、私だけのものでいて。

私だけに頂戴
(小さくて重い、独占欲)

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