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憧れの延長みたいなもの
 革命軍No.2、サボ。
 私が彼のことを知っているのはたったそれだけ。

「どこかで活躍してくれていれば、それだけで、私は、」

 今日も変わらない賑やかな街をいつものように眺める。きゃあきゃあと騒ぐ子供たちを見て、私は数ヶ月前のことをふいに思い出した。


「大人しくしてろ、いいな?」
「っ、はい……」

 数ヶ月前、小さな街だけれど、地主だったお父さんの娘ということで海賊に誘拐されたことがある。もちろん目当ては身の代金。口にはガムテープを貼られ、手足はロープで縛られで声なんて出せずにいたことを覚えている。

「いいか、今から3時間以内に1億ベリー用意しろ。できなければ人質は殺す」

 そう、交渉する声が聞こえていた。
 結論から言えば、用意はできなかった。地主とはいえ貴族などではない。短時間で用意できるものには限度がある。

「くそっ、金はまだか!?」

 焦って語気が強くなる海賊の人に怯え、つい涙を流すと煩わしそうにこちらを一瞥し、銃を手に取った。そしてカチャリと金属の音を鳴らしこちらへ銃口を向けてきた。恐怖に支配された脳では一分一秒がとてつもない長さに感じられ、気まぐれに手をかけられた引き金に目が行ったときだった。

ドゴォン!

 入り口らしき扉と、薄汚れたカーテンがかかっている窓が同時に激しい轟音を立てて壊れた。光が差すところには人らしき影が見える。
 呆然としているとごとりと、海賊の落とした銃の音で我に返った。
 コツコツとゆったりとした、しかし確信的な自信がある足取りでこちらへ向かってきた彼に容赦なく周りの海賊たちが銃を放つ。見ていられなくてぎゅっと目を瞑ると、「ぐああ!」という唸り声と共に周りの海賊たちが倒れていっていることを悟った。

「な、なんだお前……!?」
「ん?ああ、おれは……ってその前にそこにいる彼女、返してもらおうか」
「ふざけるな!……そっちが欲しいもんあんなら等価交換が常識だろ?」
「言ってる意味がわからねえな。おれは交渉したんじゃない。命令したんだ」
「く、なめやがって……!」

 傍に倒れている仲間のナイフを手に取り、彼へと襲いかかる。しかし彼はひらりとかわし、目にも留まらぬ早さで彼は攻撃し、男の人は地面へ倒れていった。

「遅くなって悪いな。怪我はないか?」

 喋ろうにも、恐怖でいっぱいいっぱいだった私はこくこくと顔を縦に振るしかできず。

「そうか、よかった。怖かっただろ?もう大丈夫だ」

 ふわりと頭を撫でられ、いつの間にか止まっていた涙が再び溢れ出した。
 ゴーグル付きの黒いシルクハット。ふわふわとした金色の髪の毛に青と黒のマント。見惚れてしまうくらいに、整った容姿だった。

「あ、の、あなたのお名前は……」
「おれの名前か?おれは……「サボくーん!奪取できた?」……」
「もう!一人で突っ走っていっちゃうんだから!」
「ごめんごめん。で、今呼ばれたようにおれの名前はサボ。こっちはコアラ」
「コアラです!……写真よりも美人さんだ!そりゃあ狙われちゃうよね」
「サボさんにコアラさん、た、助けてくださってありがとうございました!」

 震える足に鞭を打って、二人にお礼を述べる。そのまま歩き出そうとすると、ぐいっと手をひかれた。

「なあ、コアラ」
「ん?なあに?」
「送り届けるまでがおれたちの仕事だよな?」
「ふふ、そうだね」
「え?……きゃっ」

 くいっと手を引かれたと同時に迎える浮遊感。近くにはサボさんの顔があった。

「あ、の……!?」

 サボさんは不思議そうな表情を浮かべているけれど、この体勢はいわゆる「お姫さま抱っこ」というやつだ。ドキドキと高鳴る心臓がうるさい。なにぶん男の人は慣れていないから。

「歩けないんだろ?暴れないでくれ」
「あ、歩けますよ……!?」
「がくがくしてんの気づいてない?」
「うっ……」
「いい子だから大人しくしてくれ」

 さっきと同じセリフなのに、こうも違うのだと感じた。彼はとても優しかった。


「……サボさん、元気かなあ」

 かさりと新聞を手に取る。今朝の新聞では彼の活躍が載っていた。ぎゅ、と力に込めて再び外へ目を向けるとコンコンと扉をノックされる音が聞こえる。

「はい?」
「ナマエさま、お客人が来訪されました、どうなされますか?」
「お客様……?えっと、じゃあ、通してください」
「承りました」

 スリッパを履き、客間へと急ぐ。手には力を入れすぎてくしゃくしゃになってしまった新聞紙を握っていて。それをみて私は苦笑した。
 客室の扉をコンコンとノックし、中に人がいるか確認をする。

「あ、お邪魔してます」

 扉の向こうから聞こえる声に、ドアノブを捻る手が止まる。気持ちは急ぐばかりなのに、なぜか手が言うことをきかない。だって、今の声は、

「つ、つかぬことをお聞きいたしますが、なぜ今日はこちらへ!?」
「……数ヶ月前に助けた一人の女性が気になって、な」
「っ、そ、そうじゃなくて、なぜこの街に……!?」
「まあ、野暮用で」

 開けずにいる扉に額を預けていると、がチャリと捻られ預けていた額の行き場がなくなる。はっと顔をあげればそこには先ほどまで考えていた彼がいた。

「名前はなんていうんだ?」
「あ、えと……ナマエ、です……」
「そうか、ナマエ……」

 柔らかな笑顔から一変、真剣な瞳に変わる。

「……なあ、ナマエ」
「は、はい?」


「おれと、恋をしないか」

(憧れの延長みたいなもの)
(その延長はきっと、恋になる)

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