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一方通行→両想い
「……一宮さん」
「ん?なに?トンきゅん」
「あのことは、絶対言わないでくださいよ」
「言わないよ!小学校の頃は口が固すぎて逆に零しちゃうで有名なエルナさんだよ!?」
「……不安しかないんですが」

 私は今、絶賛もやもやしている。……それはもう、もやもやもやもやしすぎて死んでしまいそうなくらいにもやもやしている。

「……ナマエ?どうしたーっつって」
「熊野さん先輩……」

 いえ、なんでもないんです。と作り笑いをして部室から出る。その間にも二人はじゃれ合っていて、私の心の中はどんどんと黒くなっていくのだ。


 *


「あーあ、私最低……」

 エルナちゃんも、トンきゅんも、何一つ悪くないのに、こんなにもやもやしてしまって。本当に馬鹿みたい。

「……どうしたんですか?」
「え、わああ!?ト、トンきゅん……!?」
「何が最低なんですか?」
「……ううん、なんでもないの」
「俺には言えないことですか」
「そ、そうじゃなくて……えっと……」

 そっか。好きな人がトンきゅんってバレなければいいんだから。伏せて話せばいいんだよね。

「……実は、好きな人がいて。好きな人が他の女の子と楽しそうに話してるのを見てこう、もやもやして……二人とも全然悪くないのに」

 うん、大丈夫。バレてない……はず。だよね?

「そうなんですか。……ちなみに好きな人、というのは?」
「へ?!い、言わないよ……!」

 まさか、トンきゅんです。なんて言えるはずもなくて!ただただあわあわしていると、なんだかトンきゅんは考え込んでそのままどこかへ行ってしまった。

「……どうかしたのかな?」

 まだ、私はそのときのトンきゅんの様子を理解できていなかったようだった。

 * * *

「……なぁ、あの二人って何かあった的な?」
「んーん。わかんないんだよぉ〜」
「ぼくすら教えてもらえないんすよ!親友なのに!」
「なんで一言も話さないんだっつって!」
「「……はぁ」」
「同じタイミングで溜息!?」

 なにあいつら、なんでちょっと運命的なの……なんて言ってる赤間先輩の言葉は無視して。……そう、私とトンきゅんはあれから3日、全然喋らない。

「……すごぉく気になるねぇ?」

 元々トンきゅんが口数が少ないこともあり、本当に全くと言っていいほど喋っていないのだ。前はそれでも割と話していたのに。

「……わ、私ちょっと声出しやってきます!」
「あっ、熊野さんもついてくっつって!」

 * *

「……どうしたんだっつって?」
「熊野さん先輩ぃぃ〜〜……!」
「わっ、な、なんだっつってー!」
「トンきゅん……トンきゅんと話せてないんです……」
「……いつから?」
「三日くらい、前、から……」

 最後に話したことを教えて、と真剣な顔で言われ、語尾に突っ込む気など失せてしまった。そして、トンきゅんに好きな人のことを話したことを熊野さん先輩に伝える。もちろん熊野さん先輩にはバレているだろうけど。

「……なーんだ、全然深刻じゃないっつって!」
「え?」
「ナマエが、トンきゅんに想いをぶちまけちまえばいいんだーっつって!」
「え、えええ……!?」
「熊野さんも応援するから、伝えてみろっつって」
「……で、でも……」
「いいんじゃないかなぁ?伝えちゃってもぉ〜」
「俺もそう思う。伝えちゃえ的な感じ」
「えっ、せ、先輩……!?」
「ぼくもいるっすよ?」
「うさ丸くん……!?」
「伝えちゃえーっすよー!」

 なんだかんだで心配してくれていた部の先輩たちがひょっこりと顔を出す。……聞かれてたなんて恥ずかしい……!!!

「部室にトンきゅんいるし、行っておいでよ」
「え」
「善は急げってっつって!ほらほらぁ!」
「うっ……い、いってきます……っ」

 ニヤニヤとした表情が隠せていない先輩たちに後押しされ、私は屋上から駆け出す。目指すは演劇部の部室へっ。

 *

「くっ、はぁっ……はぁ……」
「……?先輩たちなら上に」
「トンきゅんっ……に、用があって……」
「俺に?……どうかしたんですか」
「あのっ、私……」

 走り疲れたものと緊張のものが入り交ざったドキドキで、少し気持ち悪くなる。すぅはぁと深呼吸をして、落ち着かせる。

「ごめんなさい」
「え……?」
「俺、少し大人気なかったと思います」
「ど、どうしたの……?」
「この間、ナマエさんの好きな人の話を聞いて、焦ったんです」
「……え、っと?」
「どうしようもなく黒い感情が渦巻いて、この感情がなんなのか全然わからなくて。ずっと考えてたんです」
「うん……?」
「今さっき、やっと嫉妬だとわかったんです」
「え……!?」
「先輩たちがナマエさんを追い掛けていくのを見て、またもやもやして。……俺、ナマエさんが好きみたいです」
「……ふぇ!?」
「それで、ナマエさんの用は?」
「……私も、トンきゅんが、好きです……!」
「…………!」

 ガタっと立ち上がってこちらを凝視している。……顔が熱くなって、手が震える。へたりと座り込むと、くすりと笑ってトンきゅんがこちらへと歩いてくる。

「……両想い、ってことですね」
「……そう、だね」
「あ、ちなみに俺の本名は――……」

 と、口を開きかけた途端、扉がガチャリと開いて「おめでとーっ!!」と先輩たちが入ってくる。……また言えなかった、と言う顔をするトンきゅんに私は「今度こっそりね?」と言って笑い合った。

一方通行→両想い
(……俺の本名は、)
(そこの人っ!危ないっ!!)
(……また聞けないんだ)

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