Other | ナノ

奪ってください、先輩!
「……こーんにーちはー!!!!」

 襖の前で、すぅ、と息を吸ってできる限りの大声を出しながら扉を開ける。すると、いつものようにふわふわと花をクッションにして浮いている彼。

「……びっくり」
「本当にビックリしてますー?」
「……うん。びっくりした」

 そして私だとわかると少し表情が柔らかくなる。……湊川先輩を驚かす、それが私の最近の日課だった。

「……私に何か用?」
「もう用は済みました!」
「……そっか」

 そそくさと襖から出ていこうとする仕草を見せるとあからさまに落ち込む湊川先輩。嘘ですよと言いながら先輩の前に座ると、静かに口を開いた。

「……12日目」
「え?」
「……私の所に連続で来ている日数」
「そ、そんなに多いですか……!?」

 いくらバリュエーションが豊富とはいえ、さすがにこれ以上続けると驚いてくれなくなる可能性がある……。どうしようかな、なんて考えていると。

「……あと3日でご褒美あげる」
「!……本当ですか!?」
「……嘘はつかない」
「約束ですよ?」
「……うん、約束」

 えへへ、と笑って和やかに会話が続く。……私、この時間がすごく好きだ。もちろん自分の部活も大事だけど、部活の休憩時間の30分が私にとっての癒しだ。

「……そろそろ30分」
「あっ、本当だ……!今日もお邪魔しました!また明日!」
「……また明日、待っているよ」
「はい!」

 そっと襖を閉めて出ていく。……はぁぁ、と息をついて座り込む。ドキドキ、する。胸に手を当ててみるとやはりかなり早くなっている。

「……ううー」

 最近、調子が悪いのだ。まさにスランプというやつ。主に恋煩いで。なにを書いても色恋沙汰のものにしかならないのだ。……どこかの誰かが私を奪いに来ないかな、なんて。

「書道部に、行かなくちゃ」

 そんなことを考えても仕方ないので、自分を奮い立たせ、書道部へと足を進めた。

 * * 

「……私だぁー!湊川先輩はいるかー!」

 そして言わずもがな今日も私は先輩をびっくりさせている。

「……いらっしゃい」
「あれっ、今日はびっくりしてませんか!?」
「……うん、あんまり」
「……ちぇっ、勿体ない」
「……あと2日」
「あと2日!もちろん来ますよー!」

 待ってるよ、と言わんばかりに花のような笑顔を浮かべる湊川先輩。……今日も美しいです、と密に呟く。もうお分かりのように私の想い人は湊川貞松さん。

「……なんで部員は増えないんでしょう」
「……さぁ、私にもわからない」
「書道部より先に来てたら入ってたのにー!もー!」

 ひみ先輩にはお世話になっているし、秘密ですよ、と笑ってごまかす。勢いで入った私が恨めしいよ……。

「…………」
「?湊川先輩?」
「……ごめんね、ちょっと考えごとしてた」
「いえいえ、大丈夫ですよ」

 と言い終わる頃には既に考え事に集中しているみたいで、今日はあんまり話せずに書道部へ向かうことになった。

 * * *

「……たっのもー!ご褒美をもらいにきましたー!」

 スパーンと勢いよく襖をあけるといつもそこにある姿が見えない。「あれー?先輩ー?」と声をかけてみても反応がない。不思議に思いながら廊下に出てみると。

「ねぇねぇ、聞いたっ?湊川先輩とひみ先輩が模擬戦するらしいよ……!?」
「え、うそ?本当に?」
「らしいよー!だから外に出ろって!」
「わかったー!楽しみーっ!」

 ……え、え?
 湊川先輩とひみ先輩が模擬戦、って……?そんなの初耳だったんですが!?……そ、そんなことより早く出ないと!


「んもー、湊川ちゃん急に模擬戦なんてなーにー?」
「……私が勝ったら、一つ言うことを聞いて欲しい」
「えー?なんでなんでー?」
「……なんでも。……大丈夫?」
「うーん、まっ、いいよ!負けないしっ!」
「……それは、どうかな?」

 端末で映像を見ると、本当に模擬戦をしていた。……どういうことなんだろう、よくわかんないや……。

「どしょっぱつから出しちゃうよー!"ラブリーインク"!」
「……それを待ってた」

 待ってました、と言わんばかりに湊川先輩も仕掛ける。しかし湊川先輩のクリスタルは一個割られていて。……でも余裕の表情なのが気になるな、なんて思ってると。

「ええーっ!?うそぉ!?」

 ひみ先輩のクリスタルが2個割られていた。……なるほど、1個は犠牲になった、と。そういうことなのか……。すごいなぁ。

「んんもー!ヤバくなぁい!?」
「……悪いけど、勝たせてもらうね」

「……咲いて、"セルフィッシュフラワー"」

 そう言って、湊川先輩はセルフィッシュフラワーを使う。そしてそのままあっけなく勝利してしまったのだ。


「……くやしいいいいいいい!!!!」
「……ごめんね、それでお願いを聞いてもらっていいかな」
「約束だから仕方ないね!お願いってなあに?」
「……ひみちゃんのところにいるナマエちゃんを私に譲って」
「……へ?」

 ひみ先輩と同じタイミングで同じ言葉を発する。……な、なに?どういうこと……?

「……ナマエちゃんを私の部活に譲って」
「ええーっ、やだよー!せっかくの部員がー!」
「……約束、したでしょ?」
「……うぅ、はぁい」

 * *

「……どういうことなんでしょうか、先輩」
「……?なにが?」
「なんで私は華道部にいるんでしょう」
「……それは、私がもらった、から?」

 そう。私はひみ先輩に泣きながら退部を告げられ、華道部に入部することになった。

「……私は、ナマエちゃんが好きです」
「え?」
「……聞こえなかった?」
「あ、いえ、聞こえ……えええ?!」

 湊川先輩はしてやったり、とした顔でご褒美、と囁きながら私の唇にキスを落とすのだった。

奪ってください、先輩!
(……本当に奪ってもらうなんて)
(……嬉しすぎる、よね?)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -