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キャンバスのLOVE
 水道から垂れる水の音がやけに大きく聞こえた。夕暮れの茜色の日差しが照らす教室で私は一人黙々とキャンバスに絵の具を塗りたくっていた。

「……これも、だめだ」

 描きたい絵はある。イメージも膨らむのに、全然表現が出来なくてイライラする。少し失敗しただけで全部全部塗りつぶしてやりたい衝動に駆られて、何回か塗りつぶして怒られたこともある。

「あー、だめだぁ。……完成しないよ」
「…………」
「うぅぅううぅう……なんでぇ!!」

 パレットから赤の絵の具を付け、キャンバスに大きくバッテンをつける。……はぁ、どうしよう。なんでこんなにうまくいかないの。

「……おい」
「ひぁっ!?」
「キャンバスがもったいねえだろ」
「九頭竜先輩……ごめんなさい、でも」
「なんでそんならしくねえことしてんだよ」
「え……?」
「お前の絵、見てたけどお前らしさがねえな」
「私、らしさ……?」
「ああ」

 私らしさ、ってなんなの。わからないよ。……どうすればいいの、わからない、わかんないよ。

「お前、絵を描くのは好きか」
「好きです」
「……なら見栄えとか気にせず好きなように描いてみろよ」
「……はい」
「好きなもの描くとか、そういうことしてみろ」
「はい……」

 そういうと、教室から出て行く。……初心に帰れ、ってことなのかな。じゃあ、好きなものを……描いてみよう。

 * * *

「…………」

 でき、た。……純粋に絵を描くのが楽しいと思った。こんなにウキウキして描いたのなんて久々だ。

「……ありがとう、九頭竜先輩」

 そして、そこで私の意識は途絶えた。

 * * *

「ん……」

 なんだか賑やかな気がする。すごくざわざわしてる。……なんだろう、眠いのに。

「好きなもの描けって言って九頭竜先輩描いてるってことは……!?」
「つまりそういうこと的なやつ?」
「……おい、いい加減に」
「九頭竜さん、顔赤いですよ」
「……るせぇな」
「私のナマエちゃんが……九頭竜先輩に取られたぁ!!!」
「いやエルナのでもないりゅい!」

 ……おかしいな、エルナちゃんや赤間くんの声が聞こえるのはなんでだろう。

「えっ!?!?」
「あ、起きた!おはよう、マイエンジェル!」
「……おはよう、エルナちゃん」

 眠気が勝る中、無理矢理目を開くとニヤニヤした赤間くん、ひみちゃんと、なんとも申し訳なさそうな顔をしたビミィ先生と、顔を真っ赤にした九頭竜先輩がいた。

「……!!!!!」

 そしてふと、目を移したキャンバスには九頭竜先輩の姿が。……ああああ、このことを話していたのか……!!!

「じゃあ、俺たちはこのへんで的なやつ。一宮ちゃん行くよ、ほら」
「えーっ、ひみはここにいるーっ」
「ダメ。さぁさぁ出て行くよー」
「ええっー。ナマエちゃぁぁああん!」
「あ、あはは……」

 そして赤間くんがエルナちゃんとひみちゃんを引っ張って部室から出ていく。……えっ、どうすればいいの。すごく気まずいんですが……!

「……あー」
「あ、あの!私九頭竜先輩が……」
「!ちょ、ちょっと待て!……俺から言わせてくれ」
「え?……はい」

 がしがしと居心地悪そうに綺麗な金髪を掻いてから、私に向き直ってじっと瞳を見つめる。……ドキドキする。

「……ん、俺。お前が好きだ」
「……う、ぇ!?え、え!?」

 ビックリして心臓が止まるかと思った。いや実際一瞬だけ止まったかもしれないくらいにビックリした。……なんでかって?もちろんそんなの想定外だからだ。

「わ、私も好きですっ!!」
「……ああ。サンキューな」

 ふわりと九頭竜先輩なのかと思うくらいに優しく微笑んでお礼を告げられた。何にお礼を言われたのか実はわかってはいないけど、そんなこと気にならないくらい嬉しかった。

キャンバスのLOVE
(……お前の瞳に俺は、こう映ってるのか)
(自分でも信じらんねぇくらい嬉しいや)

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