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恋というから愛にきた。
目覚めればそこは、知らない世界。

「…っ、どこなのよ。ここは」

前はクローバーの国にいたはずだった。
クローバーの国の森にいて、ピアスとボリスと仲良くしていた。

「…っ、なんで。大切な人ができたのにっ」

そう、ピアスとは恋人関係にあったのだ。
…私はもう、体験していたはずだ。
ハートの国からクローバーの国への引っ越しも、突然だった。
いつも通りの日常が、破天荒へとかわる。

「……どうして誰も、私のことを知らないのよ」

クローバーの国にいない人はもちろん、いた人すら
私のことを知らない様子だった。

「…なんで、私がこんな目に……」

泣きじゃくるなんて、嫌に決まっている。
でも、どうしようもなく苦しくて、あふれてくる涙を止める方法などわからない。
ぱたぱたと床に落ちる涙を、歪み滲む瞳でただ、見続けていた。


* 


「ねぇ、ナマエ!ちゅーしよう!」
「……え?」
「ん、どうしたの?何かおかしい?」
「…なんでピアス、ここにいるのよ?」
「え?なんでって…俺がここに住んでいるからだよ」
「…そうじゃなくて、なんでこの国にいるの」
「国?クローバーの国になにか不都合があった?」

……クローバーの、国。
ああ、これは夢だ。
我ながら、大切な誰かの夢を見るなんて乙女臭くて鳥肌が立つ。
実際、頬をつねってもなんの痛みもない。

「……そうね。しようかしら」
「ほんと?本当にっ?」
「…………ええ」

どうせこれは夢だ。
目が覚めたら会えるわけじゃない。
夢だけでもどうか、会っていたい――…。

「んっ……」

長いようで短いような感覚。

「へへっ。ちゅーしちゃった!しちゃったよ」
「そんな連呼しないでよ」
「しょうがないよ、だってしちゃったんだもん!」

こんな性格だけど、一緒にいると落ち着く。
ああ、夢なら覚めないで、なんて思うの初めてだわ。

「…どうしたの?なんで泣いてるの?」
「……え?泣いてなんか……」

そこで、はっとする。
頬が濡れているのだ。
別に悲しいわけでもない。ただの、安心感だ。

「……覚めないで」
「え?」
「………覚めたく、ないの」


どうにもこうにも、夢というものは無情らしい。





「…覚め、ちゃった」

昨日あんなに泣いたはずなのに、
まだ泣けると言うのか。

「……ねぇ、会いたいわよ」

なんて嘆いてみても。
シンメトリーの駅構内、騒々しい声々に消えていくだけ。

「……嘆くなんて、私らしくないのよ」

口ではわかっていても脳がそれを受け入れてくれない。
ぼーっと汽車を乗り降りする人を見つめる。
そんなとき、ぱりんっとなにかが割れる音がした。

「……なにか、割れたのかしら」

もしかしたら駅員がなにか割ってしまったのかもしれない。
慌てて確認しに行こうと汽車に背を向けると

「……ねぇ。ナマエ。会いにきたよ」
「…………え」

聞きたくて仕方がなかった、でも聞けるはずのない声。
振り向くのが怖かった。
もしかしてこれも夢だったりするのではないか。
いろいろ頭が駆け巡る中、こつこつと足音が近づいてくる。

「……っ」

後ろから抱きしめられた腕には傷があった。

「国をまたぐのってやっぱり難しかったよ」
「馬鹿じゃないの。なんでこんなになってまで…」
「俺はね、ナマエがいない国なんて嫌なんだ」
「……私もよ」
「……うん」
「だからこんなに涙がとまらないのよ」
「……俺、途中で諦めそうになったんだ」
「…国をまたぐこと?」
「うん。でもね、君の「恋」っていう声が聞こえたんだ」
「……ええ、たしかにね。私も「愛」にきてほしかったもの」

くるりと向き直り私は愛おしいと思う彼にキスをする。
彼は照れたようにはにかんで、
私の手を取り、歩き出した。


「ねぇ」
「…うん?」
「ナイトメアに、ここに住んでいいか聞いてみましょう」
「…うん!」


恋というから愛にきた。
(それはきっと尽きることのない愛)

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