私と紅茶と、 「ふむ。やはりこの紅茶はいい…」
「ええ、そうね」
草花に囲まれ優雅なティータイム。今日はいつもより上機嫌なブラッド。
それは、特殊なルートでしか手に入らない珍しい茶葉が手に入ったから。
「(いつもごちそうになる紅茶もおいしいけれど
この紅茶は格別ね…)」
そして珍しくティータイムのお菓子がオレンジ色ではない。たぶん、ここが一番の決め所だろう。
「お嬢さんもそう思うか?」
「ええ。いつもごちそうしてくれるのもいいけど
やっぱりこっちは別格。味が違うわ」
「だろう?お嬢さんとは話が合っていい。
エリオットも門番も、興味などさらさらないからな」
「…たしかにね」
そう、優雅。
優雅なのだが……。
「追いかけてくるなよ、馬鹿ウサギ!」
「そうだよそうだよ!なんで追いかけてくるんだ
このオレンジ頭のひよこウサギ!」
「お前らがちゃんと門に立って仕事しねえからだろうが!」
「してたよ!今はちょっと休憩してたんだ!」
カキーン、キュインキュイン。バンッッ!
この、騒音さえなければ、なのだが。
「…ああ、煩わしい。
素晴らしいティータイムをなんだと思っているんだ…」
ブラッドは上機嫌。…上機嫌だが態度だけ。きっと心の中では不機嫌だろう。
ガチンッ、バンバンッ!
今も、エリオットとダムたちは追いかけっこをしている。そうしている間にも、ブラッドは笑顔。笑顔だが背後がどんどん黒ずんでいく。
「(ああ…、これは三人が仕打ちを受けるのも
時間の問題かしら……)」
カチャリ。とティーカップを皿に置き、少し冷めたスコーンを一口食べる。
「…このスコーンは冷めてもおいしいのね」
「当たり前だ。最高級を扱っているからな」
ふふっ、と笑ってからもう一口。食べようと口を開いた瞬間――…
「……っ?」
頬に何かが当たった。正確に言えば掠った。スコーンを置いて、痛む右頬を触れば、手には赤。鮮血な赤が広がっていた。そう、私は流れ弾が掠ったのだ。たぶん、エリオットあたりの銃弾だろう。それに気付いてしまえば、右頬は痛むだけ。だんだんと、痛みを増す。
「……ったた…」
と、同時にブラッドが立ち上がり、杖を銃へと変えた。
止める暇もないほど早く、
ガウンッッ!!
撃ち放った。
「……っ!!?」
「ったぁ…ひどいよ、ボス!なんなのさ!」
「お前たち。
ふざけるのも大概にしろ。お嬢さんに流れ弾が当たった。
傷が残ったらどうするつもりだ?」
「…えっ?」
ただ、単に。イラついただけかと思っていた。だんだんと音が大きくなってきていたから。
…けれど、違った。自惚れでもいい。今ブラッドが放った銃弾は、私のため。私に流れ弾が当たったことに腹を立ててくれた。
そう、思いたい。
「ナマエ!?す、すまねえ…大丈夫か!?」
「だ、大丈夫。掠っただけよ。ありがとう、エリオット」
「なぜ、礼を言う?あいつが撃たなければ
お嬢さんに流れ弾を当たることもなかったはずだろう」
聞いたこともないような低い声。怒られていない私まで背筋が凍るような声だ。
ブラッドは銃を杖に変え、席へ座る。先程より比べものにならないくらい不機嫌だ。
――…結局、その後ティータイムは打ち切りになりディーとダム、エリオットは数時間帯はビックリするほどおとなしかった。きっと、ブラッドのお叱りが怖かったのだろう。
……これは、彼に守られた証拠かしら?
私と紅茶と、
(比べはしない。同じように愛し、守ってくれればそれでいい。)