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名もなき花の、
「お姉さーん!」
「遊ぼうよー!」

 そういって駆け寄ってくるのは、帽子屋屋敷で門番の仕事をする双子。この常識の通用しない、嘘みたいな世界で初めて愛しいと思った相手。

「お姉さん?どうしたの?」
「どうしたの?お姉さん。元気がないみたいだけど」

 彼らは、残酷だ。残酷で、慈悲などないけれど。私には精一杯の"愛情"というものを向けてくれる。

「本当にどうしたの?」
「大丈夫?お姉さん。なにかされた?やっつけてこようか?」
「ディー、ダム。大丈夫よ、ありがとう」

 双子の恋人なんて、人は可笑しいと笑うかもしれない。軽蔑的な視線を向けられるかもしれない。でも、私は両方を愛したいと、愛せると思っている。

「ねぇ、ディー、ダム」
「?なぁに、お姉さん」
「なになに、お姉さん。どうしたの?」
「今度3人で、出かけない?」
「3人でお出かけ?行きたいっ!」
「うん!僕も行きたい!3人でお出かけ!」
「ふふ。そう、どこに行こうか?」
「僕らはお姉さんと一緒ならどこでもいい!」
「そうだよ!どこでもいい」

 3人でお出かけしたときには、なにか、買ってプレゼントしよう。


* * *


 今日は、3人で出かける、約束の日。遠足前日の子供のように、早く目が覚めてしまい
約束の時間よりも早く、着いてしまった。我ながら、子供っぽいなぁと思ってしまう。



 少し遅れて、彼らが私の前へと現れる。ほんの少し、彼らの顔が赤く見えるのは私の目の錯覚だろうか。いつもなら、叱るべきところだけど。今日はいつもより気分がいいから、叱るのはやめておこう。

「…お姉さん?」
「…なんでもない。どこへ行きましょうか」
「前にも言ったけど、僕ら。お姉さんと一緒ならどこでもいい」
「うん。僕もそう思う」
「じゃあ、せっかくサンドイッチを作ってきたから
近くの広場で食べようか」
「うん!そうしよう!」
「そうしよう、そうしよう!」

軽い足取りを上機嫌に思いながらはしゃぐ彼らの元へと私は歩き出す。

* *

「お姉さんのサンドイッチ、おいしかったね!」
「おいしかった!さすがお姉さんだね!」
「…そうでもないわよ。でも、ありがとう」
「また今度作って!」
「それで、またここで食べよう!」
「…ええ。そうね、なんならもっと景色のいい所、探しましょ」
「うん、そうだね!そっちの方がおいしいもんね」
「僕ら、探しておくよ」
「ありがとう。でも、仕事をサボっちゃだめよ?」
「サボってないよ!休憩時間に探すんだー!」
「そうだよそうだよ!」

なんて、いつもの会話をしつつ。彼らへのプレゼントを探しに行きたい。という思いが込み上げてくる。

「ねぇ、ディー、ダム」
「なぁに、お姉さん」
「ちょっと、買いたいものがあるから、ここで待っていてくれる?」
「僕らも行くよ!」
「お姉さんを一人で歩かせるなんて出来ないよ!」
「大丈夫。そこの通りの雑貨屋を見に行くだけだから。
ディーとダムも、見に行ってきていいわよ?」
「……お姉さんが、そういうなら」
「僕ら、待ってる」

今日は妙に聞き分けがいいのに違和感を覚えつつ、滅多にない機会なのでそそくさと雑貨屋へ向かう。



「…ディーとダムは、やっぱりお揃いがいいわよね…」

片手にはカップ。もう片手にはアクセサリー。
カップは、白を基調としたマグカップくらいの大きさにそれぞれ青、赤、黄緑の紋章が描かれている。アクセサリーは、帽子につけれるようリーズナブルな大きさで青、赤、黄色で描かれたトランプのマークがモチーフ。青、赤はもちろんディーとダム。黄緑か、黄色は私。…3人なんて図々しいかな、なんて思いつつもちゃっかり手に取っている。

どちらも双子は使いそうにはないが、惹かれたもの。プレゼントはしたい。


散々迷った挙句に決めたのは……。


* * *


「ごめんね、遅くなっちゃって」
「全然!まだ夜じゃないからボスも起きてないしね」
「あのね、ディー、ダム。私、二人に渡したいものがあるの」
「え?」
「?」

そう言って、私の手に現れたのはアクセサリー。やはり、身に付けれるものが一番私として嬉しいからだ。

「…これは、アクセサリー?」
「そう。二人の帽子に付けて欲しいなって。私もお揃いよ」
「…いいの?もらっちゃって」
「ええ。そのために買ったんだから」
「ありがとう!僕、すっごく嬉しい!」
「うん!僕も!さっそくつけるね!」

そういって、彼らは帽子につけようとするが不器用なのか、慣れていないのか。なかなか苦戦している。そっと両方の帽子を手に取り、つける。

「……二人共、よく似合ってる。買ってよかった」
「…ありがとう、お姉さん」
「あのね、僕らからも、お姉さんに渡したいものがあるんだ」
「…え…?」
「お姉さん、目。閉じて」

言われるがままに目を閉じる。ガタンと席を立つ音と共に、鼻をくすぐる匂いが。

「目を開けて」
「もういいよ。お姉さん」

目を開けると、特に変わったものはなかった。…けど、目の前に一枚、はらりとはなびらが落ちる。頭に手を当ててみれば、そこには花の冠。

「……これは…?」
「あのね、僕らこれ作ってて遅れちゃったんだ。ごめんね」
「少し枯れてきてたから、
お姉さんが買い物してる間にバージョンアップしてたんだ!」

そういって、微笑む二人。帽子屋の仕事を休んで、
3人で出かけられたこと。私が初めて贈ったプレゼント。彼らが私にくれた花の冠。


その、すべてが愛おしくて。

そのすべてを大事にしようと、心に決めた夕暮れだった。

名もなき花の、
(そのすべてが愛おしい。)

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