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ねえねえ、こっち向いて
「ダイゴさーん」
「うん」
「好きでーす」
「うん」
「嫌いでーす」
「うん」
「…………」
「うん」

「ダイゴさんっ!!!」

 大声で呼びかけると、ハッとしてすぐに笑顔を見せる。……今言ったこと、全然聞いていないくせに。

「どうかした?」
「……全然どうもしてないですよ」
「どうもしてなさそうには見えないんだけど……」

 困った様子でこちらを見ているダイゴさんの手には、中でパステルブルーに輝く珍しい石がある。ダイゴさんはもちろん興味そっちのけだ。

「(……せっかくのデートだったのに)」

 ちゃんとわかってるつもりだった。ダイゴさんにとって一番は石であることくらい。でも実際にそうなってみて「はいそうですか」なんて言えるほど私は大人じゃない。

「ダイゴさんなんてキライです」
「そうなのかい?ボクは好きだよ」
「っ……またそういう調子のいいことを……!」
「本当だよ」

 じゃあ、どうしてこの状況になってるの、なんて言えるはずもなくて。でもやっぱり嬉しくて。色んな感情がぐるぐる回ってパンクしそうだ。

「……私、帰りますね」
「……え、どうして?」
「私がいない方が、ダイゴさんも探しやすいでしょうし」

 これはただの嫌味だ。私だけを見て欲しくて八つ当たりをするなんて子供のすること。そうわかっているのに。

「そんなわけないじゃないか」
「……いえ、今日は本当にもう」

 自分が惨めで、涙が出そうだ。こんなことを言って、それで涙を流すなんて我儘すぎる。そんなことはしたくない。

「ナマエちゃん!」
「っ、やめてください……!」
「やめないよ」
「離してっ……!」
「離しもしない」
「ダイゴ、さんのっ……ばか!」
「話してくれないかな。……なんでそんな顔をするのか」
「イヤですっ……」
「じゃあこのまま離さない」
「…………」

 ずるいよ、ダイゴさん。こういうときだけそうやって私に迫ってくること。……私がどんな気持ちになるかなんて、わからないでしょう?

「嫌いなんです」
「え?ボクが?」
「違いますっ!自分の、性格が」
「どうして?」
「……私がどんな気持ちでいるかなんて、わからないくせに」
「…………」
「そうやって期待させて、たのしいですか……!?」
「違うっ!」
「なにが違うんですか!」
「っ、ボクは……!」
「…………っ、ごめんなさい!!」

 ふ、と腕の拘束が緩んだ隙にこれでもかと言うくらい一気に駆け出す。後ろから私を呼ぶ声が聞こえるけど、振り向けない。振り向く余裕はない。

「(……次に会ったら、絶対謝らなきゃ)」

 そんなことを考えつつ、洞窟を抜け出した。

 * * *

「……どうしよう」

 ぽつりぽつりと雨が降ってくる。でも、雨宿りする気にはなれなくてどんどんと強まる雨の中、ぽつんと一人その場に立ち尽くす。

「私、最低だ……」

 本当に私を見て欲しいのなら、素直に言うべきだ。変な意地なんて張らずに言うべきだった。……子供で我儘でほとほと呆れる。

「…………ん!」
「あーあ、どうしよう……」

 ザーザーと大降りになった雨の中、やはり動く気にはなれなくて。

「……ちゃ……ナマエちゃん!」
「え……」

 聞こえるはずのない、彼の声が遠くから聞こえる。……どうしよう、どうすればいい?素直に謝る?逃げる?……ここでまた意地を張って、なにがあるの、私。

「……ダイゴ、さん」
「こんな雨の中雨宿りもしないで何してるの!!」
「……ごめん、なさい……」
「謝るのは後にして、早く行くよ」

 ぐいっと手を引かれてなすがままについて行く。……そういえばここ、トクサネシティだ。ダイゴさんの家がある……。

「近くにあってよかった。さ、入って」
「はい……」

 中に入ると、早速石がずらりと並べられていた。……そうだよね、ダイゴさんと言えば石だもん。

「お風呂はあっち。早く入っておいで」
「ダイゴさんも濡れてる……」
「ボクは大丈夫だから、行っておいで」
「はい……」

 ひんやりと肌にくっついた服を脱いで、シャワーを浴びる。……謝ろう、絶対に謝らないと。

「ダイゴさん、ごめんなさい……」
「んー?なんか言った?」
「ひぇっ!?」
「あ、ごめんね。代わりの服を置きに来たんだ」
「っ!ありがとうございます……!」
「ゆっくり温まってね」

 優しさが、とても嬉しくて。声を潜めて少し泣いたけれど、シャワーの音でバレてないはず。……たぶん。

 * *

「……あの、ありがとうございました」
「ううん。気にしないで」
「あと、ごめんなさい!!」
「いや、ボクの方こそ気付かなくてごめんね」
「え……?」
「キミとのデートなのにキミを放ってちゃ怒られて当然だよね」
「……寂しかったのは寂しかったです」
「うん、ごめ……」
「でも!素直に言えばよかったんです。素直に言うのが恥ずかしくて、八つ当たりしちゃったから……」
「すごく気にしてるみたいだけど、ボク結構嬉しかったりするから本当に気にしなくていいよ」
「え……」
「だって、好きな女の子に自分を見て欲しいって思ってもらえるって、とても嬉しいことだからね」
「…………」

 本当に、なんでこんなにいい人なんだろう。こんなの、嬉しいに決まってる。喜ばない方がおかしいよ。

「ダイゴさん」
「うん?」
「……今度、またデートしてください」
「もちろんだよ」

ねえねえ、こっち向いて
(見てもらえないのなら)
(見てもらえるだけのことをすればいい)
(たったそれだけなんだから)

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