AMNESIA | ナノ

手を繋いで帰ろう
時間は午後3時52分。シンの高校の校門前で、私は鏡を見ながら髪の乱れを直していた。すーはーと深呼吸を数回繰り返し、私はシンが出てくるのを待っていた。

「あれ、彼女誰か待ってんの〜?」
「……えっ」
「誰待ってんの?待ちぼうけならオレらと遊ぼうよ」

数人の男子に囲まれてしまった。……どうしよう、シンの名前出してもいいのかな――…。

「おい」
「…あっ」
「んだよ、今いいとこr――って、シ、シン…!?」
「俺のツレだっつの。何手ぇ出してんだよ」
「わ、悪かったって、お前のツレだって知らなくてさ!」
「じゃ、じゃあな!」

数人の男子はバタバタと走り去り、あっという間に見えなくなっていった。

「……なまえもなまえで自分のことくらい自分で守れよ」
「…はい、ごめんなさい」
「…はぁ。で、なんでこんなとこにいるわけ」
「あの、シンを待ってたの」
「なんで」
「なんでって、一緒に帰ろうと思って…」
「はぁ?俺の高校、お前の大学から結構距離あるだろ。普通に帰れよ」
「……うぅ、ごめんなさい…」
「それにお前、好きな奴でもいるんだろ。勘違いされるぞ」
「…え、なんでわかるの…?」
「……幼馴染やってる奴が色気づいたら誰だって気付くだろ」
「い、色気づいてなんて………」

確かに、シンに気付いて欲しくてグロスをぬってみたり、コロンをつけてみたりは、したけど……。……全部、シンのためなのに。

「……まぁいいや。送る」
「!…うん!」





「……今日もだめ、か」

私って、そんなに色気、ないかな。それとも、まだ”幼馴染”のままなのかな。

〜♪〜♪

「あ、メール」

From.イッキ
――――――――――――
ふぅん、シン君は振り向いてくれないわけだ。
じゃあ、明日一回だけ羞恥捨てて甘えてみて。
甘えてみて、そんで脈ありな反応返ってきたら
距離を置いてみるといいかもしれない。
いっそのこと、キスしちゃえば?



「……キ、キス…」

私に、できるかな。……いや、やるしかない。この関係を壊すには、そのくらいしなきゃ――…。





時刻は4時18分。いわずもがなシン待ちで高校の校門前です。いつものように走ってきたので呼吸を整えて乱れを直していると。

「……ねぇ、シンくん聞いてる?」
「ああ、うん」
「ほんとにきいてる?私が言ったことちゃんと覚えた?」
「……悪い、全然聞いてない」
「ほらぁ!もー!シンくんってばぁ!」

心臓が、えぐられるような感覚だった。きゅ、とか生ぬるいものじゃなくて、根こそぎ掴まれたような。頭も鈍器で殴られたように鈍く低い痛みが続いている。嫉妬と理性がせめぎ合って、なぜか涙が出てきた。

「…っ、なまえっ!?」
「っ……」

私はいたたまれなくなって弾かれたように走り出した。もちろん全力で走ったつもりだった。けれどやっぱり、男性の脚力には叶うはずもなく。

「っ、おい!待てよ!」
「……シ、ン…っは…はぁ…ぅっ…」
「なんで、泣いてんだよ。それに俺を待ってたんじゃないのかよ」
「わかん、ない……っ」
「わかんないって、なんだよ」
「………シンっ」

ぐっと肩を掴んでキスをした。ほんの数秒のはずがとてつもなく長く感じた。

「はっ……」
「っ……なまえ…何、してんだよ…」
「……キス」

シンの顔が、真っ赤になっている。私がキスをしても、真っ赤になってくれるんだ…。…嬉しい、かも。

「いや、それは知ってるっつの。…なんで俺なんかに…」
「……そんなの」
「……っ」
「自分で気づいて、ばか!」

そう言って、私は駆け出す。シンは、私を追いかけてくることはなかった。



〜♪〜♪

From.イッキ
―――――――――
あ、キスできたんだ。がんばったね。
それで、シン君の反応はどうだった?


「…脈、あり、だと思い、ます…と」

〜♪〜♪

From.イッキ
―――――――――
なるほど、よかったね。
じゃあ、こないだ言った通り
少し距離を置いてみようか。
ああ、もちろん君が耐えれる間でいいよ。
耐えられなくなったら、会いに行ってみて。


「わ、かり、ま…した…と」

…我慢なんて、できるのかな。今でさえもう、会いたいのに。



それから、シンに会わなくなって7日目。……私、もう抜け殻状態な気がする。一日一回は必ず見てたはずだから……。はぁぁぁぁ…。会いたいなぁ。





シンに会わなくなって10日目。さすがにそろそろしんどくなってきた。もうすぐ、会いに行けたらいいな。





14日目。やっと2週間、経ちました。2週間なのに、私には2年くらいの長さに感じました。……もう、会いに行こうかな。

ピンポーン

「…?はい」
「……俺だけど」
「っ…シン!?」
「悪いけど、中入れて。あ、拒否権はねーから」
「えっ…あ、う、うん…」

シンは少しむくれた顔で家に入ってソファーに腰掛けた。

「そこ、座って」
「はい…」
「あのさ、あんなことしといて急に会わなくなるって、どういうわけ」
「……あ、のそれは…」
「それと、「自分で気付いて、ばか!」って。言い逃げかよ」
「……はい…」
「…………あのさ。俺の自惚れかもしんねぇけど」
「……?」
「なまえは、俺のことが好きってことで、いいんだよな」
「う……」
「違うわけ?」
「ち、違わない…です…」

少しずつ、シンが距離をつめてきている気がする。……すごく、はずかしい。

「……っあー。やばい」
「え……」

ふ、と顔をあげるとシンはとっさに手で顔を隠した。

「な、なんで隠すの…?」
「ばか。こっち見んな!」
「ええ…っ」

耳が、赤い。…あ、そっか。…照れてくれてるんだ。

「…俺、お前は俺のことなんて意識してないと思ってた」
「え……ちがっ」
「けど、最近妙に俺に甘えてくるし、なんなんだって思ってた」
「しかも、色気づいてるし。こっちの気も知らねーで。」
「……なんかもう自棄だったのかもな。あの女が寄ってきて」
「すげぇ、うぜぇと思った。こいつがなまえだったらいいのに、って」

そういうとぎゅ、と私を抱きしめて。

「俺、お前が好きだ。すげー好き。だからもう俺の前で泣くなよ」
「っ…うん…っ」
「って、言ったそばから泣いてる。…はぁ、俺お前の涙に弱い」
「……ふふっ」
「…なにがおかしいんだよ」
「シンが狼狽えてるのって、めずらしいなって思って」
「…全部お前のせいだ、ばか」
「…うん。ふふっ、そうだね…ごめんね」
「はぁ、やっぱ憎めない。お前って色んな意味で小悪魔だな」
「そ、そんなこと……」

…私、あんなに沈んでたのにもう心が軽い。やっぱり、シンが大好きなんだ。

「シン」
「?なに?」
「だいすきっ」


「……っ!だから、そういうのズリィって…」


シン、今度は私を迎えにきて。そして、手と手をつないでかえろう。……次は、”恋人”として。

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