AMNESIA | ナノ

Last Chance
彼女は、かごの鳥だろうか。
そしてそのかごは、俺なんだろう。

8月1日。
なまえの様子がおかしくなった。かなり口数も減ったし、なにより。俺に会う回数が増えた。なまえはきっと、イッキさんのことが好きだ。それがわかっているから、俺は何も言えないし、言わない。そして、最近なまえの家に嫌がらせをされている。
最初はまぁ、なまえの写真に落書き、程度だった。けどだんだん度が過ぎて、今じゃもう郵便受けは目に入れるのすら気が滅入るほど。…なまえに記憶がないみたい、だし。俺はなまえを俺の家に置くことにしたんだ。やましい気持ちはない、はず。

……けどそれが、間違いだったのかもしれないな。


なまえは、何も言わない。
ただ不安と恐怖が入り混じった顔でこちらを見つめる。まぁそりゃあそうだよな。睡眠薬で眠らされてた挙句、ケージに閉じ込められる、なんて。

でもいいんだ。これでこいつが傷つけられないなら。……幸せに、なれるなら。ほとぼりがさめるまでは、このままで。


「…なぁ、その籠の中は、どういう気分?」
「…………っぁ」

ケージに手をかけると彼女はびくりと肩を揺らす。……予想はしてたけど、やっぱキツい、かも。そしてまたいつものように何もない空間を見つめて頷いたりしている。…………なんなんだろう。気にならないって言ったらうそになるけど。でも、聞いたって答えるはずもない。

「……っぅ」

足をずらすとかたりとケージが揺れる。たぶん、しびれたとかそういう類だろう。

再び彼女と目が合う。
喋る、ってことはもちろんなくて。


「……なぁ、俺が怖い?」
「そりゃあそうか。怖くないわけないよな」

「………ない……」

「え?」


……はは、狂った脳が余計狂ったかな。怖くない、なんてこいつが言うわけないのに。



「…………」


狂った脳が、警告を出す。……俺が俺でいる、ラストチャンス、だと。

「でも、もう。無理そうだ」


「……っ」

「……お前はここから、出られないよ――…」


ああ、愛しいなまえ。ここに閉じ込めておけば、俺のもの――…。

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