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歯の浮くセリフを、

彼はいとも簡単に発する


■ きみは雪みたいだ。

 雪の降る寒い日のことだった。カラ松くんと一緒に温かいものを買いに行くことになった私は「寒いね」なんて言いながらスーパーへ向かう。「何買おうか?」「フッ。飲むものを傷つけてしまうような味わいでそれがたまらなく癖になってしまう……」「ブラックコーヒーね」「ああ」「……コーンポタージュとカフェラテ、ココアも買ってくれ」「ん?そんなに飲むの?」「ああ、いや。兄さんと弟たちにも」「そっか」なんてやりとりをしてお目当てのものを買う。

「カラ松くんって優しいよね」
「へ?」
「自分だけじゃなくて兄弟のことも考えられるカラ松くん、私大好き」
「なっ、え、っと……名前は、ゆ、雪みたいだな」
「雪?」
「俺の熱いこの気持ちを前に、溶けて消えていってしまいそうだ」
「……何言ってるの、別れないよ」
「ああ」
「馬鹿なカラ松くん」

 近寄ってきて、と手招きをすれば素直に寄ってくるカラ松くんが素直に愛おしくて、私は彼の頬にちゅ、とキスを落とした。

 白い雪の中、真っ赤な男女、2人。


■ きみは俺の光なんだ。

 珍しく、カラ松くんに元気がなかった。こんにちは、と声をかけて家に入ればいつもは「ふっ。よく来たな、愛しの名前」なんて言ってくるのに、ただただ窓の外を見つめて何かを考えているようだった。

「どうしたの?」
「ん?ああ、名前……」
「大丈夫?」

 ぽんぽん、と頭を撫でてみれば、目を見開いたあと、眉毛がどんどんと下がり大粒の涙がポロポロと零れていく。まさか私も泣くとは思っておらず、慌ててしまったけれどぎゅうと抱きしめられてしまったらもう何も言えない。ぐずぐずの拙い声で「兄さんと弟たちが俺だけを置いてどこかへ行ったんだ」と言った。

「……カラ松くんを置いて?」
「うん」

 「みんな俺のことが嫌いなのかな」「……それはないよ」うん、ないない。だってみんなブラコンだもん。兄弟大好きくんだもん。でもなんでブラコンのみんながカラ松くんだけを置いていったのかが一番わからない。

「名前は、俺を置いていかないでくれ」
「え?」
「名前は俺の、光なんだ。……名前がいない世界は目の前すら見えない闇。心が壊れてしまうよ」
「……なにそれ?ずっと一緒にいろってこと?」
「ああ」
「新手のプロポーズだねー」
「……ちがっ!」

 え、カラ松は私と結婚したくないの?なんて悲しげに聞いてみれば「そんなわけない!」と即座に否定される。……ああ、泣きやんだみたいだ。よかった。

 彼と彼女と泣き虫の休日。
 (六つ子たちはカラ松のプレゼントを買いに行ってたみたい)


■ 人は情熱を火にたとえるけど、

「人は情熱を火にたとえるけど、僕の気持ちは正しくそれだ。君への想いが募るあまり、自身まで焼き尽くしかねない」

 ドヤ顔で私に「このセリフを提案してみた」と言ってくるカラ松くんに、苦笑いを送る。たぶんみんなは「ねーよw」なんて言って却下したんだろうけど、このセリフにときめいてしまった私はたぶんもうダメだ。

「そのセリフって、カラ松くんが女の子にいうんだよね?」
「ああ、そうだな」
「……嫌だなあ」
「へ?」

 たとえ演技だとしても、自分以外の人にカラ松くんが甘い言葉を囁くのを見るのは辛いな、なんて。

「……ごめんね?」
「ずるいな、名前は」
「えー、なんで?」
「どれだけ俺を喜ばせる気なんだよ」

 きゅ、と抱き寄せられて再び、

「名前の耳元で囀り、夢を見せてあげられるような人になりたい」
「ふふ、頑張って?」

 もう、このイタイセリフさえも愛おしいのだから、彼以外を好きになれることなんてないんだろうな。そっと目を閉じる。

 彼の支えになりたい彼女と彼女に夢を見せたい彼


■ 花のような美しさ、

 キラキラと白に包まれた空間で、彼が私を優しい目で見つめる。いつもとは違い前髪を掻き上げた彼が、私には眩しくて。

「……この俺を選んでくれてありがとう、名前」
「うん」
「松野になってくれて、ありがとう」

 俺は、花のような美しさなんて誇張だと思っていた。名前と出会うまでは、本当に。……いるんだな、花よりも美しい奴。なんて言ってくるものだから、堪えていた涙が止まらなくなって。

「泣くなよ」
「……っ、カラ松」
「ん?」

「愛してる」

 
 愛を、誓い合う、二人。


歯の浮くセリフを、- 1231


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