愛情、相性、合いそう | ナノ


  好き、ゆえに相容れない

 月曜日、おそ松くんはこなかった。
 遅刻ギリギリまで待ってみたけど、私の前に現れることはなくて。帰りも空き教室で待っていたけど、やっぱり来なかった。LINEを送っても電話をかけても反応もないし急にどうしたんだろう。助けを呼んだ私のこと幻滅しちゃったのかな。

「……うう、なんで……?」

 私のこと、嫌いになったのかな。ひどいよ、私はやっとおそ松くんのことが好きだって自覚できたのに。遊びでもいいから一緒にいてほしいよ。


「ううん、私、負けない……!」

 だって私はまだ、おそ松くんが好き。それを伝えてもいないのに簡単に諦めるなんてことできない、したくない。

「挫けないんだからね!」

 彼に気持ちを伝えて、嫌いだと言われてしまったら、私も潔く諦めよう。身を引こう。でも、少しでも望みがあるのならば私はその望みに賭けなくては。
 そう心に決めたひとりぼっちの帰り道。



「トド松くん」
「へ?あ、……えっと」
「用があるんだけど、今大丈夫?」
「う、うん、僕は……」
「おーい、トド松ー!何してんだよ、って、あ」
「……!」

 早くしろよ、と拗ねたように階段をあがってきたのはおそ松くんだった。目があった瞬間に「マズい」という表情を見せるおそ松くんに、じくりと胸が痛んだ。この反応を見るに、彼が私を避けているのは明らかだし気まずいに決まっている。

「お、俺先行くわ」
「っ、待って!」
「……ごめん」

 私が手をのばそうとしたとき、彼は小さな拒絶を見せた。嫌悪感、というよりは恐怖心の方が大きいように思える。拒絶された私なんかより痛そうな顔をしていたから、私はそこから何も言えなくなってしまって、トド松くんに「ごめんね」と呟いて階段を駆け上がった。

「……おそ松兄さん」
「いや、だって」
「名前ちゃんすごい傷つくじゃん!馬鹿なの?」
「馬鹿じゃねえよ!……いや馬鹿だな」
「馬鹿だね」
「おい、兄に向って馬鹿馬鹿言いすぎだろ」
「同い年でしょ」

 今日の帰りはちゃんと会ってあげなよね。とトド松は呟いて迎えにきた彼よりも先に階段を降り始めた。迎えにきたおそ松はというと、無意識に拒絶していた自分の手を見つめてその場から動かない。痺れを切らしたトド松が階段をあがってくるまでもう少し。



「!?」

 バサァッ、と教科書が手から滑り落ちる。周りにいた友人たちはビックリしたり爆笑したり心配したり様々だが、私はそれどころではない。

おそ松:今日、空き教室で待ってる
おそ松:こなかったら、俺泣いちゃう!

 なんともおそ松くんらしいな、と思ったけど泣きそうなのは私の方だ。避けるのかと思えば急にくっついてきたり、もうわけがわからない。でも、せっかくのこのチャンスを逃すわけにはいかないんだ。この気持ちをおそ松くんに伝えなきゃ。

「どした?」
「好きな人から連絡があった」
「おお!?避けられてると言ってたのに?」
「うん、だからビックリしちゃって」
「頑張れ!私たちは応援してるよ!」

 うんうん!と別の友人が相槌を打つ。あとはこの1時間を乗り切れば放課後になる。早く放課後になって欲しいような、欲しくないような複雑な気持ちが絡み合って気付けば最後の授業が終わりのチャイムを告げていた。





 いつになく緊張した気持ちで彼を待つ。既に待って10分近く経つが、まだ彼は現れない。何時に、と約束したわけではないので遅刻だともいえないし時間が経てば経つほど私のネガティブ思考が渦巻いて逃げ出したくなる。

「……早くこないかなあ」

 形容しがたい気持ちでいっぱいの私は肺から、胃から、心から様々なものを吐き出してしまいそうだった。

「っ、ごめん!!!」
「!?お、おそ松くん!」

 ガタガタッ!と忙しなく扉を開いたのはおそ松くんだった。珍しく息を切らしていて、扉の近くで呼吸を整えている彼に私はそっと近づく。

「どうしたの……?」
「せ、生活指導のヤツに見つかっちゃってさ!怒られそうになったところを逃げてきた!」

 な、なんで逃げる必要があるんだろう、と思ったけどまあ、彼の姿を見れば違反ばかりなのでわからなくもない。「それに、早く名前に会いたくて」と照れ笑いを浮かべた彼に、言わずもがな私も照れを浮かべる。……卑怯だよ、そんなこと今言うなんて。

「と、とりあえず座らない?」
「ん?あ、そうだな」

 既に呼吸が整った様子のおそ松くんにそう声をかけて私自身も席へ座る。ああ、こうやって話すのは金曜日以来だっけ。しかもあのとき、キスされたんだよね、と思い出すとどうにも顔が赤くなってしまう。

「顔赤くね?どした?熱?」
「う、ううん、違うよ」
「そう?ならいんだけど」

 やっぱりわかりやすいのかな、と両手で頬を触ってみれば熱くなっていて、そんなに恥ずかしかったんだ、と思い知らされる。

「あのさ」
「え?」
「ちょっと、お腹見せてくれない?」
「へ!?」
「あ、いや!そういう意味じゃなくて!あいつら、名前に蹴り入れたっていうから傷が気になって」
「あ、そ、そういうね……」

 しかし、蹴りを入れられた部分がかなり胸の位置と近くて見せるのにはかなり抵抗がいる。好きな人ならばなおさらに。

「一回だけ!お願い!」

 ああ、私、彼のこのセリフに弱いなあ、なんて考えながらブレザーを脱いでブラウスを持ち上げる。毎朝見てるからもうなんとも思わくなったけど早く消えてほしいとはいつも思っているこの痣。

「……やっぱ、そうだよな」
「え?ひゃっ」

 痛々しげな表情を見せて、彼は私の傷をそっとなぞった。冷たい指先が触れられたことでびっくりして、声をあげてしまったがおそ松くんは特に何も思っていないようだ。それはそれで悲しいけど。

「痛い?」
「ううん、あ、でも笑うとちょっと痛いかも」
「そっか……」

 ごめんな、なんて呟いて彼は目を伏せる。どうしてこんな空気になるのか私には全然わからなくて、おちゃらけるように

「傷が治らなかったらおそ松くんに責任とってもらうからね!」

 なんて言ったら驚いたあとに「……うん、責任取るよ」なんてしおらしく言うものだから私も私で驚いてしまった。私も彼も何も言わず、気まずい沈黙が続く。このお腹の痣はいつまで見せればいいんだろう。いい加減恥ずかしい。

「ごめん」
「なんで謝るの……?」

 私、おそ松くんが考えていること全然わかんない。それに私おそ松くんのこと全然知らない。わからない。それでも、好きなんだよ、私。

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