愛情、相性、合いそう | ナノ


  無自覚なりの自覚

 ピロン。

おそ松:おはよ
おそ松:迎えに行きたいんだけどごめん、駅でいいかな

 そう、LINEがきた。なんで彼が謝るのかわからず、「全然大丈夫!むしろごめんね」と返した。すると「なんで謝んの?」ってかえってきて、同じこと考えてるなって笑った。
 末っ子、トド松くんとあってから二日が経った。有難いことに登下校を一緒にすることが当たり前になってしまって、そのたびに私たちは少しずつ距離を縮めていった。昨日と一昨日は家まで迎えにきてくれたんだけど、今日はそれが難しいみたい。家からだと話す時間が長いから、今日はちょっと寂しいな、なんて考えて慌てて頭を振った。

「……迎えにきてくれるだけでありがたいんだから」

 顔を洗って、歯を磨いて、コンタクトをつけて制服を着て、携帯を鞄の中に仕舞って家を出る。いつもの日常。変わらずストーカーはいるみたいで。

「……ねえ」
「へ」
「あの男は誰?名前ちゃんの何?彼氏?彼氏なの?」
「ひっ……」

 唐突に、声をかけられた。一定距離を保っているはずのその不審者は、いつのまにか私の後ろに立っていて、松野くんのことを聞かれてるようだった。彼氏じゃない、ですと震える声で答えると「そう……」。ニタリと笑った。本当に彼氏じゃないけど、彼氏だっとして「彼氏です」と答えたらどうなるのか、たぶん答えはわかっていた。彼の右手に握られた金属バッドが正解だ。
 じり、と後ずさる。ニタリと笑ったままの顔で、「ふぅ」と息を吐いたその瞬間、私は駆け出した。それはもう、文字通り全速力で。50mで6秒台が出せるんじゃないかレベルで街を駆け抜けた私は、駅のホームで立つ松野くんを見つけて、さらに加速をした。

「まっ、っつの……く……」
「!?ど、どうしたんだよ、名前!」
「ごめ、……あの人、金属バッ……持てて」

 息も絶え絶えで松野くんに先程のことを伝える。別に、暴力を振るわれたわけでもなければ触られたわけでもない。ただ、怖かっただけだ。松野くんに「大丈夫」と安心させてもらいたかった。

「大丈夫、俺がいる」

 なんて、松野くんは都合のいい言葉を私にくれるから、そのたびに私は安心してまた彼に依存する。

「行こう、歩ける?」
「……うん」

 ごめんね。と心の中で小さく呟いて、私は彼を追いかける。「にしても金属バットとかマジか。物騒だなー」と松野くん。「そうだね。殺されちゃいそう」私。「他人事かよ!?」松野くん。「だって……」と私。
 バットを目の前にしてみても、現実味がなくて、ただ漠然と「怖かった」んだ。

「やっぱ俺、放っとけねーわ」
「え?」
「名前。傷つくの見るなんて絶対ムリ!」
「う、うん」
「可愛いもんな〜名前!ほんと無理!死ぬ!」
「え、え?」

 さっきからポロポロと爆弾発言ばっかり何がしたいんだこの人。可愛いだの放っておけないだのちゃんと自覚してる?!私照れちゃって松野くん見れないよ!?

「松野く」
「あのさ!」
「へ!?」
「松野くん、じゃなくておそ松って呼んでくんね?」
「な、なんで!?」
「だって俺ら六つ子だよ?みんな松野くんじゃん!俺だけの特別感欲しいよ〜」
「う、うう」

 確かに、みんな”松野くん”だ。でも、だって、おそ松なんて呼んだら私、男子のことを名前で呼んだことないのに!

「……ね?」
「お、おそ松くん……」
「は!くんはいらない!」
「ご、ごめんね!!!!呼び捨ては難しい!!」
「ちぇーっ。ま、いいけどさ」

 そんなこんなで、松野くんではなくおそ松くんと呼ぶことになってしまいました。嬉しいような、苦しいようなそんな感覚が私を支配する。

「(……苦しい)」

 ギュゥ、と握りつぶされた感覚。でもちっともいやなんかじゃなくて、自覚するにはまだ、早かったみたいだ。



「なーなー」
「…………」
「俺といるのイヤ?」
「…………」
「えっ、イヤなの!?」
「……イヤじゃない」

 じゃあなんでさっきから無視すんだよー。なんて拗ねるおそ松くん。無視をしているわけじゃない。ただ、この気持ちが何か自分でもよくわからないから向き合っているだけだ。

「うーん」
「…………」
「あっ」
「えっ」

 ふいに声をあげたおそ松くんに私もつられて顔をあげる。すると、ちゅ。なんて音がして、唇に柔らかくて温かいものがあたっているとわかって、キスをされているんだと理解した途端、私はショートした。

「あ、反応した」
「へ、ま、つのく……」
「おそ松だって。もっかい塞がれたいの?その口」
「っ、な、なんで!!」
「だって俺のこと無視すんだもん!」

 だからって、キスをすることはないだろう。私、初めてなのに。

「(でも、そうじゃなくて)」

 驚いたのは、急にされたキスでも、その理由なんかでもなく、おそ松くんが相手で嫌じゃなかったことだ。ドキドキと高鳴る心臓がさきほどよりも強く締め付ける。

「顔、真っ赤」
「っ!!!!!!!」

 恥ずかしくて、泣いてしまいたくてたまらなくなった私は、おもむろにカバンを手に取って教室を出た。
 嫌悪や拒絶からではなく、ただただ羞恥から涙が出た。ああ、そうか。私、おそ松くんが好きなんだ。すとんと心に落ちてきた。だからノリでしたみたいなキスがとてつもなく悲しくて、「真っ赤」と指摘されていかに自分が経験不足か痛感させられて、痛かったんだ。

ゴッ

「っ!?!?」

 そんなぐちゃぐちゃの思考回路は、いっぺんに片付けられてしまった。

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