愛情、相性、合いそう | ナノ


  交換条件そのいち

 彼の名前は松野おそ松。私と同じ2年生だということがわかった。私の親友によれば学年でも有名なんだそう。知らなくてごめんなさい。その、有名な理由の一つに、彼らは六つ子ということも含まれているらしい。それはすごい。六つ子なんて初めて聞いた。
 そんな有名で人気(親友曰く)な彼が私に最初に言ってきたこと、それは。

「俺、脚好きなんだよね。ニーハイ履いてくんね?」

 こうだった。なんというか、色んな意味で拍子抜けした。言うことを聞けというからにはもっと我がままなことを言われるのかと思えば。

「(なんだ、そんなこと)」

 言われるがままに今履いている靴下を脱いで、ニーハイに手をかけた。

「いいね!!エロい!そそる!」

 なんという爆弾発言。というよりもこんな地味で目立たない私に「なぜ?」と思わなくもなかったが、もしかしたら私みたいな地味なのが彼の好みなのかもしれないと納得することにした。

「うん!いいねえ!セーラー服にニーハイってロマンだよね、もはや!」

 そして彼は聞いてもいない性癖をぺらぺらと語り出す。最初の方はなんとか理解することができたがあとの方はもはや人類が理解できる言葉なのかというレベルの単語が山のように出てきたので私は仙人になったつもりでただただ無心を貫いた。そんなこんなで昼休み45分中、35分がこれでつぶれました。ちなみにそんな気があったのかは知りませんがかなりきわどい角度まで見られて恥ずかしさで死にそうでした。



「あの」
「え?」
「え?じゃなくて!」
「なにか問題ある?」
「……大有りじゃないですかね?」

 放課後。再び空き教室へ連れてこられて言われた一言、「勉強教えて」。教えられる立場ではないが、テストの結果を教えてもらったところ想像よりひどかった。教えられる範囲でなら、と付け加えてノートと教科書を開いたのはいいものの、シャーペンを握っていない方の手、つまり左手を彼の右手で握られている。

「温かい……じゃなくて!ちゃんと聞く気あります?」
「あるある」
「……本当かな」

 ちなみに、まだ出会って一日目である。一日目と言うより12時間も経っていない。あまりにも彼がフレンドリーすぎて多少人見知りのある私が気圧されている。

「つかさ、名前って家××駅方面なんだよね?」
「え、はい」
「俺もなんだよね!駅まで一緒に帰ろうぜ!」
「あっ……はい、お願いします」
「堅苦しいなあ、タメで話そうぜ」
「え、っと」
「なーなー」
「う、うん。頑張る、松野くん」

 松野くんは「名前で呼んでよ」と少し不服そうにしていたが、私の砕けた喋り方に満足して妥協をしてくれたみたいだ。……なんだか、楽しいな。こういうの。私は元々小中が女子校出身のせいで男子と話すのも緊張するし怖いけど、松野くんは怖くない。むしろ居心地がいい、なんて出会って間もないのにこんな感情抱くなんておかしいのかな。

「ん?どした?」
「ううん!そういえば松野くんって六つ子なんだよね?」
「あー、うん。そだよ」
「私のクラスには”松野”くんがいないんだけど、どのクラスにいるの?」
「俺と四男が2組、次男と六男が5組、三男と五男が6組だな」
「そうなんだ!二人ずつなんだね。そっか、私3組だから合同授業も一緒じゃないし知らないわけだ」
「そそ!みんないい奴だよ〜最近構ってくれなくて寂しいけど」
「ふふ。お兄ちゃんなんだね」

 あ、兄っぽくないって思っただろ。図星を突かれて少し口ごもる。しかし松野くんは言われ慣れているのかそれとも気にしていないのか、怒ってはいない様子だった。むぅと口を尖らせた姿はなんとなく「構ってちゃん」なんだと思う。

「……って、あ!もうこんな時間!」
「ん?うわっ、もう7時回んじゃん!急げっ」

 真っ赤なパーカーのフードが揺れる。急いで彼を追いかけ、校門を出て違和感に気付いた。

「……おい」
「あ、」
「いるよな?今朝のヤツ」
「そ、そうだね」

 だらりと冷や汗が流れる。たった一度のことかもしれない。けれど私にとって恐怖以外の何物でもないあの感触を思い出してとっさに自分の手首を掴む。情けなくも自分の両手はカタカタと震えていて。

「……行くか」

 ぼそりと呟いたかと思うと、ぎゅっと私の右手を掴んで走り出す。角にいるであろう人の横を思いっきり駆け抜け、駅へ猛ダッシュした。同じ方向だとわかっているので丁度、たまたま運よく到着した電車に乗り込んで呼吸を整える。

「どこで降りんの?」
「え、と……○○で」
「そっか。俺一回名前ん家まで送ってくわ」
「え?」
「本当に何かあったとき、困るだろ」

 コイツがあってもさ。と携帯を振る。今朝のうちになにかあったときのためにとLINEを交換した。

「あ、別に俺はストーカーじゃないからな!?」

 いらぬ心配をする彼を見て、なんだかくすりと笑みがこぼれた。ありがとう、とお礼を言えば、気にすんな。と照れくさそうに鼻の下を擦っていた。
 ○○で降りて家へと向かう。ホームを出て、さきほどの気配を感じないことに安堵し、松野くんに「いないみたい」と告げれば「そっか」と反応がきた。他愛もない会話を交わして家へと送り届けてもらった。家の中に入って、ぺたんと座り込む。ヴヴッとなった携帯に驚いて取り出せば松野くんからだった。

おそ松:あんま怯えんなよー

 たった一言、それだけだったけど、私には十分すぎるくらい温かかった。

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