愛情、相性、合いそう | ナノ


  一方的な交換条件

私は、ただひたすらに恐怖と焦りから逃れようと走っていた。生まれて17年、地味に目立たないように生きてきたつもりだった。しかし、なぜか高校に入ってからストーカーにつけられる日々。いつもは電車に乗ると気配もなくなるのに、なぜか今日は電車にまでついてきた。加えて今まで一回も接触などなかったのに手を握られた。瞬間、恐怖を感じていつも降りる駅の1つ手前で強引に手を振りほどいて降りた。

「はぁっ……どうしよう、たぶんついてきてる……」

 ちらりと振り返れば真っ黒のジャケットにマスクと帽子、いかにもな不審者が一定距離を保ってついてきている。バッチリと視線が合ってしまって、なぜか私は急速に足を止めた。……あれ、なんで、私の足、うごかないの。

「……逃げないでよ……名前ちゃん……」

 はぁはぁ、と鼻息を荒くして近寄ってくる。……いやだ、怖い。だれか、たすけて、そう思うのに上手く声が出ない。すぐ近くに影が寄り、ぬっと手が伸びた。

「(たすけて……!!!)」

 そのとき。

「ああああ!!!!死ぬ!!死ぬってえええ!!!」

 急に上から声が降ってきた。途端目の前の男は「ぐぇっ」と情けない声を出して、いやこの場合は仕方ないのかもしれないけどキュゥと潰れていた。

「……あり?死んでない」
「…………あ」

 潰れた男の上には、学ランの中に赤いパーカーを着こんでいる、やんちゃそうな人が乗っていた。……というかなんで上から?

「っ、う……」

 そんな呑気なことを考えながらも、先ほどの緊迫感が嘘のようで。その温度差になぜか私は涙を流してしまった。
 涙を流す私を見て、落ちてきた彼は吃驚していた。少しの間オロオロとしていたけれど、私の涙は止まらなくて。なにか考えた末に私の手を掴んで駆け出した。

「とりあえず学校行こう!君、赤塚高校だろ?」
「は、はい……!」

 よく見てみると、彼の制服も赤塚高校のものだった。そして気付けば既に私は最寄駅まで走っていたみたいで、高校はもうすぐそこだ。

「俺、外から入っていける空き教室知ってんだよね!」
「そ、そうなんですね……!」

 うん!あ、あそこあそこ!とテンションの高い彼に手を引かれたまま、空き教室へ入っていく。なぜ空き教室なんだろうかと思ったけど話せばわかるか、と考えることをやめた。

「ふぃー、あっちー」

 ドカっと椅子ではなく机に腰掛けて、座れば?とでも言いたげな視線を向けられる。そろりと彼の座る机の前にある椅子に腰かけた。あっちーなーとパーカーの襟元を掴んで扇ぐ姿が、なぜか目についた。

「んで、泣いてたけどなんかあったの?」
「えっと……あの」
「あー、言いづらいこと?」

 少し気まずそうな視線。……別にいいかな。言っちゃっても。彼には関係のないことだろうし、と考えてゆっくり口を開いた。
 今年に入ってから、登校中に強い気配を視線を感じるようになったんです。最初のうちは気のせいかなって思ってたんですけど、気のせいじゃなくて。その、ストーカーだったんです。でも、行きにしかいないし特に被害もなかったのでいいかな、とか思ってたら今日初めて接触されて、怖くて、
 と、途切れ途切れながらも伝えた。と、思う。たぶん。

「なるほど、ストーカーか」
「は、はい」

 んー。と唸り声を出す。真剣に話を聞いてもらえたかといえばそうではないけど、それでもただなんとなく、スッキリした。

「じゃあ俺が守ってやるからさ」

「え」

「俺の言うこと聞いてよ」

 違和感を感じなかったかと言われれば、「No」である。かといって断ったかと言えばそうでもない。

「お、お願いします」

 と、口から出していた。
 

 なぜかって?
 たぶん、顔が好みだったから気を許してしまったんだ。

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